オムニチャネルやO2Oといった言葉が日本でも流行っているが、中国ではその先を行く取り組みが増えてきている。
それは、「リアルにデジタルを組み込む」という発想ではなく、「デジタルで接点をもちたまにリアルにも来てくれる」といった関係性だ。
書籍『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』では、そのような時代のことを書籍名のとおり「アフターデジタル」と名付けている。
本書は、オフラインのデジタル化を考えている人には必読な内容になっているように思う。
本記事では、その「アフターデジタル」のエッセンスといくつかの事例を紹介していこう。

- 作者: 藤井保文,尾原和啓
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2019/03/23
- メディア: 単行本
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「アフターデジタル」とは?
まず、本書でいう「アフターデジタル」とは何か、整理していこう。
図に表すと、下図のようになる。
このように、アフターデジタルにおいては、「デジタル世界がリアル世界に包含される」関係になる。
「ビフォアデジタル」と「アフターデジタル」はそれぞれ次のように定義されている。
【ビフォアデジタル】リアル(店や人)でいつも会えるお客さまが、たまにデジタルにも来てくれる。
【アフターデジタル】デジタルで絶えず接点があり、たまにデジタルを活用したリアル(店や人)にも来てくれる。
このように、これまでは「リアル」を起点に考えていたものが、アフターデジタル時代においては、「デジタル」を起点あるいは中心に据えて考えるという思想の転換が必要になる。
リアルの価値や役割はどうなるのか?
このような「アフターデジタル」時代において、「リアル(店舗)」の価値はどこにあるのだろうか?
本書では、リアルの役割は「密にコミュニケーションを取れる貴重な接点」と捉え、デジタルでは実現できない「より高い体験価値や感情価値が求められる」としている。
以前、本メディアでも、平安保険グループの「平安医好生(Ping An Good Doctor)」の事例をご紹介した。
平安保険グループでは、生活者との接点をつくるために「平安医好生(Ping An Good Doctor)」というアプリケーションで価値を提供し、蓄積したデータを元に、彼らの本業である保険ビジネスのマーケティング等に活かしている。
その平安保険では、リアル店舗をアプリのオンボーディング(インストールから利用までしてもらうこと)に活かすようになっているという。
このように、「リアル」の役割は、デジタルを起点に考えた際の、ユーザーとの密なコミュニケーションをとることができる戦略的な1つの駒として捉えることができるだろう。
OMO(Online Merge Offline)という概念
アフターデジタル時代において、オンラインとオフラインをどのように捉えるべきか?
そう考えたときに必要になってくるのが「OMO(Online Merge Offline / Online merges with Offline)」の概念だ。
すなわち、「オンライン」や「オフライン」という区分で考えるのではなく、その状況において顧客において最適なチャネルを提供するという発想だ。
これは、たしかにユーザー視点で考えると納得だ。1ユーザーとして考えた時に、オンラインやオフラインというふうには考えない。
ユーザーはただ「その時に便利な手段を選びたいだけ」なのだ。そこに、オンラインやオフラインの区別はない。
このOMOについて、中国の自動車領域のプラットプラットフォーマーであるビットオートの方は、以下のように語っている。
オンラインとかオフラインとか、そのようにチャネルで分けて考えていないんですよ。そもそもそういうチャネルで分けた考え方は、すごく企業目線だと思っています。今の時代は、OMOとも言われるように、オンラインとオフラインは既に溶け合って違いはなくなりつつあると考えるのが当たり前なんです。顧客はチャネルで考えず、その時一番便利な方法を選びたいだけですから。
もはや「OMO」の考え方は「当たり前」と。
分かっているようで、こう言い切れるところに強さを感じる。
また、もう1つ本書で無人コンビニを提供する「Jian24」の方の言葉が掲載されており、面白かったのでご紹介しよう。
中国への視察に来た日本企業の担当者による「無人コンビニのノウハウを試験的に取り入れていきたい場合、どのようにすればよいか?」といった質問への回答だ。
最も重要なポイントは取得した行動データを顧客ごとにつなげて活用できるか、ということです。なので店舗だけを作り替えるとか、一部の店舗だけで始めても意味がなく、すべての会員データ・全ての店舗の在庫データ・店舗等との連携など、全部デジタルデータとして扱えるようになって初めて意味のある取り組みになるのです。今そのような状態にありますか?
お店やレジが無人であること自体には大して意味があるわけではなく、オンラインの店舗がリアルに置かれたとイメージしてください。そのイメージがつかめると、初めて Jian24 のようなシステムや技術が有効活用できます。インターネットではどのページを見ながらどう遷移しているかを知ることができますが、それと同じように、店舗の中を見回っている行動を解析するわけです。
この発言には、なんだかハッとさせられた。
特に、「お店やレジが無人であること自体には大して意味があるわけではなく」と言い切っているところが、非常に納得感がある。
OMOの発想において、無人コンビニはコスト削減の手段なのではなく、さらに良い顧客体験を実現するための手段であり、そのためにはデータの連携が不可欠というわけだ。
この他にも、非常に勉強になる言葉が多数あり、それをチェックするだけでも本書の価値はありそうだ。
まとめ
本記事では、書籍『アフターデジタル』の内容を中心に、アフターデジタルの世界、OMOの概念などについて整理してきた。
この領域については、中国が二歩も三歩も進んでいるように感じる。
書籍の内容だけでは実感できない部分もあるため、やはり実際に中国に足を運ばねばと思わされた。
『アフターデジタル』、これからのリアル店舗を活かした戦略立案に関わる全ての人におすすめの一冊だ。

- 作者: 藤井保文,尾原和啓
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2019/03/23
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【追記】同時期に発売された『新・小売革命』という書籍も、アフターデジタルと合わせて読むと理解が深まるのでおすすめだ。

- 作者: 劉潤
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アリババやシャオミ、ジンドンなどの中国企業のニューリテール戦略、オンラインとオフラインをデータを元に最適化している事例が多く掲載されている。
詳細は、以下の記事よりご確認いただきたい。