アリババのBtoCのEコマースサービス「Tmall(天猫)」をご存知だろうか?
以下のグラフのように、中国において過半数のシェアを占め、圧倒的な地位を築いているECサービスとなっている。
また、グローバルでみても、その流通総額は、2017年時点でAmazonグローバルを大幅に超え、楽天市場には10倍以上の差をつけているという文字通り桁違いのサービス規模となっている。
本記事では、そのTmall(天猫)が2017年に設立した「Tモールイノベーションセンター(TMIC)」の取り組みを紹介していく。
いわゆるオープン化戦略の例として非常に面白いので、自社ビジネスな参考にしてみてもよいかもしれない。
Tモールイノベーションセンターの仕組み
早速、Tモールイノベーションセンター(以下、TMIC)の仕組みを紹介していこう。
TMICとは、簡単にいうと、「Tmall(天猫)及び外部調査会社の膨大なデータを収集・分析し、クライアントのデータに基づいた商品開発を支援する機関」である。
これまでに、P&Gやユニリーバ、サムスン、資生堂等、名だたる企業たちがこの TMIC を利用して、商品開発に役立てている。
TMICの支援モデルは、図解をしてみると、以下のようになっている。
まず、アリババは、「Tmall(天猫)の莫大な購買データ」に加えて、ニールセン/イプソス/ユーロモニター/GFK等の調査会社10社からリサーチデータを購入することで、中国国内のBtoCコマースにおいてまさに最強とも言うべきデータを収集する。
次に、中国市場で製品販売を展開したい企業にとって喉から手が出るほど欲しいこのデータを、アリババはクライアントに対して無償で提供する。
そして、新製品が完成すると、その商品は、「発売から6ヶ月の間はTmall(天猫)内でのみ販売」という制約のもと、販売が開始される。
さらに、販売時には、「アリババ商業オペレーティングシステム」というアリババが今までの積み重ねてきた11のアセットにより支援を行っている。
ざっくり説明をすると、このような仕組みになっている。
中国市場は、海外諸国と比較して独特の生態系や購買傾向があると言われているが、この TMIC の仕組みを導入することによって、実に新製品の成功率は95%という成果が現れているという。
データをオープンにすることで、「アリババ・海外ブランド企業・生活者」の全ステークホルダーがハッピーになる素晴らしい取り組みといえるだろう。
Tmall と Amazon の比較
Tmall のオープン化戦略を、Amazon の戦略と比較すると以下のようになる。
Tmall(天猫)がデータをオープンにして第三者企業による製品開発を促しているのに対して、Amazon はデータの公開は限定的で逆にそのデータを活かして自社製品「Amazon Basics」の開発に活かしている。
どちらが良い悪いというわけではないが、この戦略の違いは面白い比較だろう。
Amazon で出品している企業からすれば、いつ自社製品よりもコストパフォーマンスに優れた製品を Amazon が作ってくるか分からないという不安を抱えることになるが、Tmall(天猫)では様々なプレーヤーがデータを用いることができるため、よりフェアな競争環境と言えるかもしれない。
まとめ
本記事では、Tmall(天猫)の TMIC によるオープン化戦略を図解した上で、Amazon との比較も行ってみた。
Amazon については多くの書籍も出版され、よく分析がされているが、実はそれより売上規模の大きい世界最大のECサービスである Tmall(天猫)については、まだまだ少なくとも日本語では情報が少ないように思う。
英語による分析記事は色々とありそうなので、また面白い事例や考察があれば紹介していこう。