GWの読書におすすめな本を紹介していこう。
1冊目は、『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』という本。
『アマゾンが描く2022年の世界』の著者としても有名な田中道昭さんが、専門領域である「金融」について語った初めての本ということでも、注目だ。
本書は、「アマゾン銀行」というキーワードがタイトルにあるが、実際には、これからの金融のあり方を問う内容になっている。
本記事では、本書の中から特に重要な点をいくつか抜粋してご紹介しよう。

- 作者: 田中道昭
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2019/04/18
- メディア: 単行本
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アマゾン銀行は誕生するのか?
まず気になるのが、タイトルにある「アマゾン銀行」は誕生するのか、という点だろう。
筆者は、アマゾン銀行誕生は、予期しないほうがおかしい、ごく自然な帰結であるとしている。
現在は、米国の銀行業と商業の分離を義務付ける規制や銀行業界からの反対などにより実現していないが、その中でも、許される金融領域にはすでに手を出している。
アマゾンのクレジットカード、アマゾンレンディング、アマゾンペイはその代表例だ。
ここ最近では、中国のアリババやテンセントが米国においても急速に勢力を拡大し始めている。その動きに対して、米国の規制当局も、危機感を持ち始め、規制の見直しを検討しているという。
このような動きから、そう遠くない将来に、アマゾン銀行は実現するのではないか、というのが筆者の主張である。
もしかしたら、米国よりも規制が緩い日本で PoC 的に先んじて実施するということもあるかもしれない。
アマゾンが銀行業を始めた場合のレイヤー構造
アマゾン銀行が実現すると、アマゾンは以下の図のように、上流から下流まで幅広いレイヤー構造を自社内で保有することになる。
物流・商流・金流の3つの流れを全てアマゾンのみで完結することができるようになる。この全てを抑えることで、最適化の幅も広がるはずだ。
さらに、AWSは様々な銀行システムにも導入がされている。日本でも、三菱UFJ銀行がAWSへのシステム移管を徐々に進めている1。
銀行システムの構築で培ってきたノウハウも活用することで、これまでの銀行で最もハイクオリティな銀行を構築していけるのではないか、というのが筆者の考えだ。
バーゼル銀行監督委員会の予測シナリオ
本書では、米国の銀行のデジタル戦略、日本のメガバンクの動き、シンガポールのDBS銀行のデジタル化成功の秘訣などに触れた上で、締めくくりに向けて、バーゼル銀行監督委員会の予測シナリオを紹介している。
バーゼル銀行委員会の次世代金融についての予測シナリオはこちら。
『健全な慣行とは何か:フィンテックの発展が銀行と銀行監督者にもたらす意味』
ドキュメント内では、次世代の金融に対して「5つのシナリオ」を示している。顧客に商品・サービスを提供するプレーヤーを「サービス提供者」と「顧客接点」の2つに分けている考えている点がユニークだといえる。
このように、既存の銀行、フィンテック企業、メガテック企業をプレーヤーとしてそれぞれのシナリオが描かれている。
筆者は、これらのシナリオについて、法人を「大企業」と「中小企業」、個人を「一般」と「富裕層」に分けて、4つのプレーヤー毎にどのシナリオが当てはまりそうかを予測している。
たしかに全てをまとめて語るのではなく、上記のように少なくとも4つのプレーヤーで分けて考えてあげると、具体的に議論ができる。
各プレーヤーにおけるシナリオは、本書を手にとってからのお楽しみとしよう。
「金融4.0」と日本の金融機関の進むべき道
さらに、筆者は次世代金融を「金融4.0」と名付け、以下のように定義している。
- 金融1.0:対面型だった金融
- 金融2.0:インターネットが使われるようになった金融
- 金融3.0:アリババ・テンセントに代表されるスマホ中心の金融
- 金融4.0:分散型テクノロジーであるブロックチェーンがフル活用され、新たな評価経済のインフラとなる世界
金融4.0における変化として、「価値観の変化」が最も重要だとしている。それは、シェアリングエコノミー、金融的な考えでいうと「資産の流動化」が当たり前のようにされていく考え方だ。
金融4.0において、金融ビジネスでは、以下のような変化が起きるという。
- P2PとC2Cが重要となる
- 「ビッグデータ×AI」が重要となる
- 従来データの動的データが加わる
- リスク分析がより精緻化する
- 金融商品の設計が多様化する
- 従来型金融商品は低価格化する
これらを得意とするプレーヤーが台頭してくるはずだということだ。
日本の使命とチャンスは?
そのような中、筆者は、日本の地方銀行や信用組合の多くが庶民の相互扶助として始まった「無尽」という自然発生的な仕組みの中から生まれてきたことに注目し、これらがブロックチェーン等を活用した分散型金融で低コストで実現できるようになろうとしていることが、日本にとってのチャンスと主張している。
そして、そのような新たな経済圏を築いていく上で、その人の本当の信用(あるいは信頼)が評価される社会担っていく必要性を指摘している。
日本が「金融4.0」で進めていくべきなのは、従来は信用とは認められてこなかった、でも人が普段の生活の中で持っている、その人ならではの強みや信頼を新たな「信用」として金融の「信用補完」にしていくことなのではないかと思うのです。学歴、勤務先、年収といった「信用」だけでなく、その人が本当に持っている「信頼」が重視され、それが本当に評価される社会。新たな金融テクノロジーは、人が本来大切にしてきた価値や価値観で生きることができるようにすることを支援するために使われるべきだと思うのです。
「信用」と「信頼」の定義はここでは論じないようにしておくが、筆者のいう「信頼」とは、これまでオンラインでは評価しきれていなかったが現実世界では存在しているような信用のことをいうようだ。
つまり、信用スコアリングにおいてさらに様々なデータが組み込まれることで、今よりもリアルなその人の信用度が分かるようになることが必要だということだろう。
最後の一文は、以下のように締めくくられている。
本書が、信用だけでなく信用も評価され、多様性や個性を活かすことに貢献するような、新たな分散型金融システムやプラットフォームが、日本から生まれることのきっかけになったとしたなら、筆者として最高の幸せです。
新たな信用プラットフォームの必要性を匂わせるような内容だ。
まとめと感想
本記事では、『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』の内容をご紹介してきた。
ファクト部分については、さすがの情報量で勉強するところが多かった。特に、DBS銀行がデジタル化により大きく数字を伸ばした事例などは面白かった。
最後の次世代金融(金融4.0)の未来予想については、ブロックチェーン及びそれを活用した分散型金融システム・プラットフォーム、新たな信用プラットフォームについても示唆する内容であった。
未来についての具体論や実現方法については論じられていなかったので、この本を読んだ上で友人や同僚と議論できるとさらに学びが深まるだろう。
というわけで、次世代金融、フィンテックの未来について考える人におすすめの一冊だ。400ページほどで厚めの本なのでGWなど時間のあるときに是非。

- 作者: 田中道昭
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2019/04/18
- メディア: 単行本
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