アリペイを運営するアントフィナンシャルでは、「3要3不要(「3つするべきこと」と「3つのしてはいけないこと」)」の行動指針を定めている。
その行動指針から、アントフィナンシャルの思想を垣間見ることができる。
本記事では、「3要3不要」の行動指針を定めるきっかけとなった出来事と、その指針の実際の内容について触れていきたい。
インターネット出身金融会社としての甘さ
2016年、アントフィナンシャルの運営するサービスにおいて、相次いで事件が起きた。
1つ目は、圏氏事件(チュエンズ事件)と呼ばれるものだ。具体的には、アリペイのSNSの一部のグループ内で男性からのチップを目的としたセクシー写真がアップされていることが判明し、公序良俗を乱すサービスとして非難された事件だ。
2つ目は、資産運用商品販売プラットフォームである「招財宝」で、償還遅延が起こった事件だ。これは金融会社としては当然あってはならないことだが、インターネット会社出身の管理の緩さが露呈してしまったとも言われている。
これら2つの事件が相次いで起こったことで、アリペイに対してネガティブな世論も多くなってきていた。そのような中、何とかこの状況を打破しようと打ち出されたのが、「3要3不要」の行動指針である。
「3要3不要」の「3要」とは?
まず、「3要3不要」のうち、「3要(3つのするべきこと)」について見ていこう。
1. 選択権はユーザーと顧客に与えろ
常にユーザーと顧客が第一であり、彼らに◯か×をつける権利を与え、煩わせることのないようにすること。
2. 他人がしたがらないこと、できないこと、したくないが仕方なくしていることをしろ
他人の邪魔、競合するようなところには手は出さず、ウィンウィンを目指すこと。
3. データを戦略の決定の主要な根拠とせよ
頭だけで考えて物事を決めるのではなく、戦略に関わる意思決定はデータを元にすること。
「3要」から言えること
これら「3要」が言えることは、アントフィナンシャルがプラットフォーマーとしてユーザーと顧客を第一に考え、いかに共存していくかを重要視しているということだ。
また、3つ目のデータを元にした意思決定の項目も捨てがたい。「ユーザーと顧客にとって良いこと」を実現していく上で、その考えが偏った考えによるものであっては元も子もない。きちんとデータドリブンな思考を行動指針として入れ込んでいるあたりはさすがといえよう。
「3要3不要」の「3不要」とは?
では、次に「3要3不要」の「3不要(3つのしてはいけないこと)」について見ていこう。
1. 信用と安心感を犠牲にすることを条件とするな
信用と安心感は絶対のユーザー体験であり、それらは決して犠牲にしないこと。
2. 神の目線でものを見るな
他人は自分よりも賢いと信じ続けること。
3. 取捨選択を避けるな
何かをするためには、何かを捨てる必要がある。取捨選択と向き合い意思決定をすること。
「3不要」から言えること
1点目については、「3要」とも通ずるところがある。ユーザーは第一に考えるべき対象であり、金融サービスにおいて「信用」と「安心感」という体験はユーザーのことを考えると確実に守らねばならないことだ。
2点目については背景が気になるが、ユーザーへのリスペクトが不十分なためにユーザー体験を損なうような思考に陥っていたことがあったのかもしれない。
3点目については、あらゆる場面で言える普遍的な言葉であり、戦略あるいは戦術を決めたらそれをきちんと実行するためにリソースを割いていくという意思の現れだろう。
まとめ
アントフィナンシャルの唱える「3要3不要」について振り返ると、同社の徹底的なユーザー視点/顧客視点を垣間見ることができる。そして、プラットフォーマーとして他社との共存を図るような指針も盛り込まれたいることは非常に面白い。
特に大企業による金融サービスは、自社視点で物事を考えてしまうことが多く、それがゆえに十分なユーザー体験を実現できていないというケースはよくあることだ。
アントフィナンシャルのように、企業の指針として明文化し社内全体の意思統一を図ることは、日本企業にも求められることかもしれない。
参考書籍
アントフィナンシャルの「3要3不要」については、こちらの書籍から抜粋させて頂いた。その他にも、アントフィナンシャルという会社できる前の話からその立ち上げ期の話まで、アントフィナンシャルの成り立ちを知る上でとても勉強になる内容となっているので、詳しく知りたい方には是非オススメしたい。
アント・フィナンシャルの成功法則: アリペイを生み出した巨大ユニコーン企業
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以下の記事は、アントフィナンシャルの中心サービスである「アリペイ」とテンセント運営の「WeChat Pay」との決済領域における覇権争いについてまとめたものだ。争いの中、アリペイが取った戦略には学びが多くあるので、ぜひ気になる方は読んでみてほしい。
また、こちらの記事にはアントフィナンシャルの名前の由来とそこに込められた想いについてまとめている。 www.dappsway.com