世界最大級のユニコーン、アントフィナンシャル(Ant Financial)がイギリスの国際送金大手の WorldFirst(ワールドファースト)を買収したというニュースが世界中で話題になっている。
アントフィナンシャル(Alipay)の欧州進出の足がかりとし、その先にはグローバル展開も見据えていると言われている。
本記事では、アントフィナンシャルの今までの買収及び投資実績を振り返ることで、これまでの動きと今後の動向について考察していきたい。
買収案件は以外と少ない4件
まず、アントフィナンシャルによる買収案件についてみていこう。
買収案件は意外と控えめな4件のみ。以下の4件だ。
- WorldFirst
- helloPay
- EyeVerify
- 36Kr
それぞれ簡単に解説していこう。
WorldFirst(ワールドファースト)
WorldFirst はイギリスロンドンに本社を構える2004年設立の会社。国際送金サービスをスプレッドの低い為替レートで提供している。
イギリスを中心に世界中で利用されており、日本でも越境EC等をやっている方には特に馴染みのあるサービスだ。
今回の買収に関して、WorldFirst のファウンダー兼CEOの Jonathan Quin 氏は以下のように語っている。
WorldFirst のプロダクトとアントフィナンシャルのテクノロジーおよびクライアントネットワークが合わさることで、「最高の国際取引のグローバルプラットフォームを構築する」という共通の目的を推進することができる。
まさに、Alipay と WorldFirst により、グローバル規模での決済プラットフォームを構築していくという野望が現実となっていきそうだ。
helloPay(ハローペイ)
helloPay は、シンガポールに本社を持つ決済プラットフォーム企業。
2011年に、ECプラットフォーム「Lazada(ラザダ)」上の決済プラットフォームとして設立され、2017年4月にアントフィナンシャルに買収されている。
ちなみに、Lazada はドイツのロケットスタートアップ社により設立された会社で、「東南アジアのAmazon」とも呼ばれている。
ECサービス Taobao(タオバオ)の決済ソリューションとしての起源を持つ Alipay と、ECサービス Lazada(ラザダ)の決済ソリューションとしての起源を持つ helloPay ということで、起源は共通している。
当時、helloPay は、シンガポール、マレーシア、フィリピン、インドネシア、ベトナムで展開されており、それぞれ、lipay Singapore、Alipay Malaysia、Alipay Philippines、Alipay Indonesia、Alipay Vietnam というようにブランド変更がされた。
EyeVerify(アイベリファイ)
EyeVerify は、アメリカのアイプリント認証を提供するセキュリティ会社だ。
既存のスマートフォンのインカメラを用いて、眼球内の毛細結果のパターンマッチから99.998%以上の精度で認証ができる特許を保有している。
2016年9月にアントフィナンシャルに買収されている。
今後、Alipay の認証形式として組み込まれているのかもしれない。
36Kr
36Kr は、中国の起業家支援及びイノベーションプラットフォームだ。
月間5億PVを誇る中国最大のベンチャーIT系メディアの「36Kr media」、ベンチャーキャピタル、オフィスソリューション「Kr Space」を主に提供している。
今まで、20,000以上のスタートアップ支援、そして4,000以上の投資ラウンドに協力してきたとのこと。
これは、アントフィナンシャルの投資戦略につなげていくための一手といえよう。
日本でも、2018年8月に、中国語サイト制作等を手がけるネスターとVCによる合弁で「36Kr Japan」が設立され、本家「36Kr media」の良質な情報を日本にも届けてくれるようになっている。
投資実績は圧巻の49社
続いて、アントフィナンシャルの投資実績についてみていこう。
投資については積極的に行っており、CrunshBase を参考にすると、累計49社に対して55回の投資を行っている。
時系列で見ると以下のように、直近その勢いはさらに強まっていることが分かる。
さらに、国別でみると、以下のような傾向になっている。
Country | 投資ラウンド毎 | 企業毎 |
---|---|---|
China | 42 | 38 |
India | 4 | 2 |
Singapore | 3 | 3 |
Indonesia | 2 | 2 |
Bangladesh | 1 | 1 |
Korea | 1 | 1 |
Pakistan | 1 | 1 |
US | 1 | 1 |
これを見ると、中国国内の投資がその大半を占めており、インド・シンガポール・インドネシアといった東南アジアから南アジアにおいてその領域を拡大していることが分かる。
さらに、韓国では1社投資となっているが、しっかりと Kakao Pay へ資金を投下している。
先述したとおり、アントフィナンシャルにとって、欧州への投資実績は今までに存在しておらず、米国への投資の1社である TigerGraph も決済系ではなくリアルタイムグラフ分析の企業であった。
そうした意味で、英国の World First の買収は、アントフィナンシャルが今後、アジアを超えてグローバル・スタンダードを作っていく上で非常に大きな一手であったことが分かるだろう。
まとめ
World First CEO の Quin 氏が言うように「最高の国際取引のグローバルプラットフォームを構築する」というのが共通の目的なのだとしたら、アントフィナンシャルの世界進出は今後大きく加速していくように思われる。
日本でも、Alipay 対応店舗が増えているが、もしかしたら、日本のどこかの企業を買収あるいは提携をして NFC 決済に対応したりといったことがあるかもしれない。
アントフィナンシャルの今後の展開に目が離せない。