中国の信用スコアといえば、アリババ系列の「芝麻信用」が有名だ。
しかし、中国人民銀行が信用調査業務のライセンスを公布した唯一の企業は、その芝麻信用ではなく、「百行征信(バイハンクレジット / 略称:信聯)」という企業である。
百行征信(信聯)とはどのような企業で、中国の社会信用システムとどのように結びついているのか、解説していこう。
百行征信(バイハンクレジット / 信聯)とは?
百行征信は、2018年1月4日に設立された。英語読みでは、「Baihang Credit(バイハン・クレジット)」、中国語の略称としては「信聯(シェンリン)」と呼ばれている。
特徴的なのは、その株主構成だ。
中国政府系の業界団体である「中国インターネット金融協会」が36%を保有し、残りの64%を中国人民銀行から信用調査業務の試行を許可された8社が8%ずつ保有する形になっている。
つまり、政府を中心とした信用調査機関のプラットフォーム的な立ち位置の企業というわけだ。
ちなみに、8社の中には、アリババ系列の「芝麻信用」やテンセント系列の「騰訊征信」も含まれる。
このバイハンクレジットは、2018年1月に中国人民銀行より信用調査業務のライセンスを付与され、現在中国で唯一のライセンス保有の信用調査機関となっている。
ちなみに、2019年3月時点で600以上の企業・団体がデータパートナーとして連携している1。ただ、公式サイトのロゴの隣には「Beta」と記載されており、まだ正式なサービスローンチには至っていない。
百行征信(バイハンクレジット)が設立された背景
中国政府は、2014年に「社会信用制度の構築に向けた計画概要」で、2020年までに国家規模の社会信用システムを構築していくことを発表した。
その計画に基づき、信用調査業務の「試行」を8社に許可し、いわばパイロットプログラムが始まった。その中で、芝麻信用は大きくユーザー数を伸ばし、国家の社会信用システムとしての認可を得られるかと思われた。
しかし、中国人民銀行は、信用調査機関としては「第三者としての独立性」が必要だとし、アリババ系列の色が強い芝麻信用には認可を与えず、別の方法を考える必要がでてきた。
そこで現れたのが、「百行征信(バイハンクレジット)」である。
民間企業にパイロット運転させてみたものの、やはり民間では第三者的な立場の信用調査機関を構築することは難しい。それならば、政府を中心としつつパイロットを試行していた8社の資本も入れ知見やデータを集約する形で新たな企業を設立すればよいのではないか、という発想だ。
日本の信用情報機関でも、たとえばCICの株主は「クレジット会社41社」としているように、やはり第三者的な立場が求められる企業は、資本的にもその第三者性が必要となるということだろう。
信用調査機能はバイハンクレジットに統合へ
2018年5月に開催された「第14回中国信用4.16ハイレベルフォーラム」にて、中国人民銀行征信管理局長の万存知氏は、興味深い発言をしている。
事前に個人調査業務を準備してきた8社は、今後単独で信用調査業務に従事することはなく、それらの信用調査機能の一部は切り離されバイハンクレジットに整理統合される。その他の業務はデータサービス業として存続していくこととなる
ここから分かるには、以下の2つのことだ。
- 「信用調査機能」についてはバイハンクレジットに統合されていく
- 信用調査業務の試行をしてきた民間8社は、信用調査機能以外の業務を「データサービス業」として行っていく
つまり、これまで8社が蓄積してきた全てのデータはバイハンクレジットに集約され、未だかつて無い大規模なデータプロファイルが出来上がることになる。
民間の信用系サービスの今後の行方は?
民間の信用系サービスは、今後「データサービス業」として存続していくことになる。
「データサービス業」の内容は不明瞭だが、「信用調査機能の一部以外の業務」と読み取れる。おそらく、現在民間企業が提供しているサービスは、そのまま継続して提供するということなのだろう。
ただ、今後「百行征信(バイハンクレジット)」が独自の信用スコアを提供するようになった場合、より多くのデータから算出しているため、その精度は既存の信用スコアに比べて高くなるはずだ。
そうなったときに、芝麻信用などの既存のスコアはその役目を終え、単にユーザーのデータを百行征信(バイハンクレジット)に提供する仲介業者となってしまうのだろうか?
このあたりはどう動いていくか分からないが、注目ポイントだ。
まとめ
本記事では、中国の信用調査機関のハブとして設立された「百行征信(バイハンクレジット)」について解説してきた。
中国政府は、百行征信(バイハンクレジット)により、全国民のデータを蓄積し信用のプラットフォーム(社会的信用システム)を構築しようとしている。
政府主体でうまくいくのか、既存のサービスはどのように変化していくのか、引き続き目が話せない。
本記事執筆にあたり、以下の書籍を参考にさせていただきました。

- 作者: 西村友作
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2019/04/19
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る