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中国政府による社会信用システムと民間の信用スコアの違い

中国の社会信用システムと民間の信用スコアの違い
中国の社会信用システムと民間の信用スコアの違い

「中国の信用スコア」について議論する際に、「中国政府の社会信用システム」と「民間企業が運営する信用スコア」は混同されることが多々ある。

両者はたしかに似ている部分もあるが、区別して理解しておく必要がある。

本記事では、中国の信用システムについての議論を建設的に進めるために、中国の社会信用システムと民間の信用スコアの違いと関係性について、整理していこう。

中国の社会信用システムとは?

まず、中国の社会信用システムについて、解説していこう。

中国の社会信用システムは、「中国政府が推進している国民の評価システム」である。

2014年6月14日に、中国国家省が「社会信用制度の構築に向けた計画概要」というドキュメントを発表し、明らかになった。

こちらにそのドキュメントの英訳が公開されている。

chinacopyrightandmedia.wordpress.com

ドキュメントによると、中国政府の狙いは「社会全体の正直さと信用の水準を上げ、国家の競争力を全体的に底上げすること」である。

A social credit system is an important component part of the Socialist market economy system and the social governance system.

社会信用システムは、社会主義経済システムと社会統治システムにおいて重要な構成要素である。

Planning Outline for the Construction of a Social Credit System (2014-2020)

とあるように、中国の社会主義経済システム及び社会統治システムを確固たるものにするべく、立ち上げられた計画だ。

そして、2015年1月、この社会信用システムを2020年までに全国的に導入したいという意図のもと、中国人民銀行は「8社の民間企業」に社会信用評価に利用するシステムとアルゴリズム開発の認可を与えた。いわば、「パイロットプログラム」である。

全8社を並べると以下のようになる。

  • 芝麻信用:アリババ系列アントフィナンシャル運営
  • テンセント:アリババと双璧をなす巨大テック企業
  • Lakala:電子決済プラットフォーマー
  • 前海征信:平安保険グループ子会社
  • 中誠信国際:老舗の信用情報機関
  • 鵬元征信:老舗の信用情報機関
  • 華道征信:新興の信用情報機関
  • 中智誠征信:新興の信用情報機関

よくニュースでも目にするアリババの「芝麻信用」は、この8社のうちの1つという立ち位置なのである。

中国の民間の信用スコアとは?

すでに半分ほど答えを言ってしまったのだが、政府の「社会信用システム」のパイロットプログラムとして誕生したのが、民間の信用スコアのはじまりである。

芝麻信用は、2015年の1月に中国人民銀行から信用スコアシステム開発の認可をもらうと、同月の16年1月28日には信用スコアサービスをリリースした。

このことから、2015年は中国における「信用スコア元年」とも呼ばれている。

中国では、中国人民銀行からの認可を受けた8社以外にも、信用スコアサービスを提供している企業が出てきている。

EC大手の「JD.com」が提供する「小白信用」は、その一例だ。また、シェアバイクの ofo や mobike も独自の信用システムを構築している。

また、芝麻信用についても、「政府の社会信用システム構築計画」の発表より前の2012年には準備が水面下で進められていたことが明らかになっており、政府による「社会信用システム」のために作られたサービスというわけではない。

各社は、中国人民銀行からの認可の有無にかかわらず、自社のサービスやビジネスにおいて「信用」が肝になると判断したために、信用スコア事業に乗り出している、ということが分かるだろう。

社会信用システムと民間信用スコアの関係性は?

「社会信用システムの構築」に向けて8社を指定した当時は、その8社の中から政府の社会信用システムを担うものが出てくることを想定していたと考えられている。

ただ、芝麻信用のように多くのユーザーを抱えるサービスは出てきたものの、中国人民銀行は、それらの民間サービスを政府の「社会信用システム」として用いることを断念した。

その理由としては、主に以下の3点があげられている。

  • 各社が独自の閉鎖系のシステムを構築してしまい情報のカバレッジが制約されてしまっていること
  • 統治機構として必要となる第三者的な独立性が損なわれていること
  • 信用調査の基本理念や基本ルールに対する理解が不十分であること

特に、1点目と2点目は、たしかに民間企業が運営主体となる場合には、限界がありそうだ。こうして、民間の信用スコアサービスは、政府の社会信用システムとは基本的に切り離された。

ユーザーの許諾のもと民間サービスから社会信用システムへのデータ提供が行われることは想定されているが、基本的には政府のシステムではなく「1つの民間サービス」という立ち位置である。

まとめ

本記事では、中国政府による「社会信用システム」と芝麻信用などの民営の「信用スコア」の違い及び関係性について、解説をしてきた。

両者は似通っている部分もあるので混同されがちだが、こちらの記事が理解の助けになれば幸いである。