中国では、無人棚・無人スーパー・無人コンビニといった「無人型店舗」が急速に増えている。
ユニコーン企業である猩便利(ゴリラコンビニ)、新興の简24(Jian24)、フランス系のBINGO BOXなどは、日本のメディアでも目にすることがあるだろう。
これらの無人型店舗は、今後さらに増えていくのだろうか? また、「無人化」することに本当に価値はあるのだろうか?
本記事では、そんな無人型店舗の可能性について、ニューリテールの観点で分析して、整理していこう。
ニューリテールをさらっと復習
まず、無人型店舗について分析していく前に、分析のフレームワークについて、簡単にご紹介しよう。
こちらは、『事例でわかる 新・小売革命 中国発ニューリテールとは?』で紹介されていたニューリテールを分解したフレームワークを図示したものだ。
このように、「物・場所・人」に分けて考えると、小売において何が変わるのかを理解しやすい。
詳しくは、こちらの記事をご覧いただきたい。 www.dappsway.com
無人型店舗により変わること
では、上述の小売フレームワークにおいて、無人型店舗では、何がどのように変わるだろうか?
「物・場所・人」のそれぞれで、以下のような変化が考えられる。
物:配置する商品の最適化・配置場所の最適化
まず、物においては、店内の移動データや手にとった商品のデータがオンラインのIDと紐づく形で把握できるため、店内に配置する商品最適化の質の向上、配置場所の最適化などを行うことができる。
さらに、消費者の動きやオンライン・オフラインを合わせた行動データなどから、商品開発に活かしていくこともできるかもしれない。
場所:人件費削減と設備コスト増
次に、場所においては、コスト面でプラス効果とマイナス効果の両面がある。
場所は、「情報流」「金流」「物流」の3つに分類して考えられるが、無人型店舗で影響があるのは、「金流」の部分だ。
金流では、レジ業務分の人件費削減がある一方で、設備コストは増加する。また、陳列棚は放って置くと荒れてしまうため、棚の整理のための管理コストはかかってしまう。
つまり、場所においては、無人化することによる人件費の削減分のコストが、設備コストや陳列棚の管理コストと比べてどうなるか、という問題となる。
人:成約率・客単価の向上、オンライン含めたリピート率の向上
人は、「人流量」「成約率」「客単価」「リピート率」の4つの要素で考えることができる。
無人型店舗では、人流量(=トラフィック)そのものを増やすことは難しいが、その他の3つの要素にはプラスの影響がありそうだ。
たとえば、成約率では、その地域や時間帯などの条件に合わせて商品を揃えることは当たり前のようにできるし、他にもそのお客さんのオンライン購買履歴を元におすすめの商品をレコメンドすることで成約率は上がる可能性がある。
また、客単価についても同様で、レコメンドにより向上が望める。
リピート率については、店舗UXの向上により「また来たい」と思ってもらえるかもしれないし、さらにオフラインでの購買履歴を元にしたオンラインでの商品レコメンドといった手段もあるため、工夫次第では向上が望める。
アリババ元CEO「大手企業の実力アピール手段」
このような無人型店舗であるが、アリババの前CEOで投資ファンド「ビジョン・ナイト・キャピタル」創業者の衛哲(デヴィット・ウェイ)氏は、次のような言葉を残している。
私は無人スーパーにはことのほか反対だ。もしも明らかな効率上昇が見られなければ、無人スーパーはベンチャー創業者のビジネスチャンスではなく、単に大手企業がその実力をみせつけるだけの手段になるだろう。
これは、おそらく先程のフレームワークでいう「場所」にフォーカスした際の発言である。
「場所」に着目すると、たしかに削減できるコストと増大するコストの両面があり、そのバランスは、明らかな効率上昇がなければ、ビジネス的にはイーブンあるいはマイナスとなってしまう。
ただ、上述したように、「物」や「人」における変化要素についても着目すると、衛哲(デヴィット・ウェイ)氏の発言は、ふさわしくないものになるだろう。
Amazon Go の目的は人件費を浮かすためではない
アメリカでは、無人型コンビニとして「Amazon Go」が注目を集めている。
Amazonのプエリーニ副社長は、Amazon Go の狙いについて、次のように語っている。
Amazon Goの目的は人件費を浮かすためではない。
まさにこの通りで、人件費の削減は無人型店舗において全く本質ではない。
そうではなく、今までうまく捉えることができなかったオフライン購買に関わる詳細なユーザーデータを取得できること、そしてそのデータを元にユーザー体験を向上させられることが本質なのだ。
まとめ
本記事では、中国を中心に増加中の無人型店舗の可能性について、ニューリテールのフレームワークを用いて解説をしてきた。
無人型店舗といえば、日本でも、NECが無人コンビニの実証実験を行ったり、オフィス600という職場向けの無人コンビニサービスが出てきていたりする。
これらの試みや事業は、おそらくコストの削減にとどまらず、次の未来を描いているのだろう。
今後、無人型店舗の導入が進むことで、その本質であるデータの利活用の議論が進んでいくことを楽しみにしたい。