2018年末より、信用スコアに関する話題も多くなってきている。
中国を拠点とするアントフィナンシャルの「芝麻信用」を中心に、日本でもみずほ銀行とソフトバンクの合弁会社による「Jスコア」がリリースされたり、LINE・ヤフー・ドコモといった大企業が信用スコア事業への参入を表明したりと、まさに大忙しだ。
ただ、これらの信用スコアはいずれもその提供範囲は一国に閉じたものであり、もしあなたが海外へ移住とするとなれば、あなたの信用スコアはゼロからやり直しとなってしまう。
これってイケてなくない?
そのような問いから、ブロックチェーンを活用してグローバルな単位で各人のIDを作成し「ボーダレスな信用スコア」を構築していこうという企業がいくつか出てきている。
本記事では、そのうちの1つである「COLENDI」というサービスについて紹介していこう。
「信用スコア」について詳しく知りたい方は「信用スコアとは?信用スコアの仕組みやメリット、利用データについて」をご覧ください。
COLENDI とは?
まず、COLENDI の会社及びサービス概要について解説していこう。
会社概要
COLENDI は2016年2月に設立されたスタートアップ。
本社は、「クリプトバレー」とも呼ばれるスイスのツーク州に構えている。ツークでは、世界中の様々なブロックチェーンプロダクトのICOが実施されており、COLENDI としても ICO を検討しているということかもしれない。
開発拠点については、トルコと中国の二拠点となっている。
プロダクトについては、2019年2月に開発拠点の1つであるトルコでのローンチを予定しており、今後様々な都市に拡大をしていく予定だ。
これまでに総額$250K(約2,750万円)を調達しているが、調達額としては大きくないため、自己資金で運営しているのかもしれない。
ミッション
彼らのミッションは以下の通り。
Give a financial score and identity to anyone in the world and ensure their safety and privacy.
世界中のすべての人にフィナンシャルスコアとアイデンティティを与え、彼らに安心と安全を保証すること。
「世界中のすべての人に」というのが彼らのユニーク性であり、大いなる野心でもある。
銀行口座を持たない29億人の人たち
COLENDI が取り組む課題は、全世界で29.3億人もの人々が銀行口座を保有していなかったり十分に利用できていないという事実だ(unbaked or underbanked と呼ばれる)。
全人口の38.5%の人々が銀行口座を利用できておらず、アメリカにおいてもその数は5100万人に上るという。
彼らは、銀行口座を持たないため、既存のクレジットスコアが判断の元データとしているローンの返済履歴やクレジットヒストリーといったデータをそもそも保有できていない。
そのため、"credit invisible" とも呼ばれ、融資の対象とならないのだ。
適切な利率の融資を受けることができなければ、事業を始めようにも難しいし、学習して職を得ようとしてもその教育投資すら難しいというように、いわゆる負のサイクルから抜け出せないといった現象に陥ってしまう人も多くいる。
ボーダレスな信用スコア
このような課題に対して、COLENDI は「ボーダレスな信用スコア」を作ることで、課題解決に挑んでいる。
COLENDI の事業は大きく分けると以下の3つに分かれる。
- credit scoring(信用スコア)
- decentralized ID(非中央集権的なID)
- blockchain-based lending(ブロックチェーンベースのレンディング)
この中でも、特にコアとなるのが1点目の「信用スコア」だという。
そのため、2点目や3点目については、既存事業者とのパートナーシップも視野に入れている。
具体的には、非中央集権的なIDであれば、uPort や Civic のあたりが代表的なプロダクトとして挙げられる。また、ブロックチェーンベースのレンディングであれば、Ripio Credit Network のあたりが対象となる。
では、そのコアとなる信用スコアをどのように実現しているのだろうか?
信用スコアで利用しているデータ
COLENDI の信用スコアでは、1000以上の指標を元にしている。
その中には、財務に関するデータ以外も含まれる。具体的には、以下のようなデータを指標としている。
- Smartphone data(スマートフォンデータ)
- Social media data(ソーシャルメディアのデータ)
- Transaction data(取引データ)
- Blockchain credit history data(ブロックチェーン上のクレジットヒストリーデータ)
- Personal data(パーソナルデータ)
データホルダーとして、通信会社や大手のリテールチェーンといった企業と交渉をしているらしく、そこから判断すると、スマートフォーンデータにはスマホ通信の決済履歴やデータ利用量のデータが含まれると予想される。
また、取引データについては、リテールチェーンにおける購買データも含まれているのだろう。
上記のリストは COLENDI のホワイトペーパーに記載されていた内容だが、粒度が曖昧でやや分かりにくい部分があるため、今後さらなら情報が出てきた際に更新していくようにしたい。
データの取得方法は?
データは、基本的にデータを保有している企業(データホルダー)から受け取る形式となる。
ただ、データホルダー側もそれなりの対価がなければ、データを出そうとはしないだろう。そこで、COLENDI では、データ提供の対価として独自のトークンを支払う形をとっている。
COLENDI がいかに広まるかは、このデータ提供パートナー企業をいかに開拓できるかにかかっているともいえるだろう。
COLENDI はグローバルな信用スコア構築を目指しているが、このデータ提供パートナー企業の開拓においては、いきなりグローバル企業を落とすということは現実的ではなく、国ごとにある程度規模感のある企業を仲間にしていく必要がある。
そのため、2019年2月に予定されているサービスリリースについても「まずはトルコから」となっているという事情がある。
数カ国で成功を収めた後に、一気にグローバル企業とパートナーシップを結び世界展開へつなげていけるのか。COLENDI の事業成否の分水嶺はまさにここといえるだろう。
なぜブロックチェーンか?
COLENDI はブロックチェーンプロダクトということでも注目を集めている。
COLENDI がブロックチェーンによる実装を行っている理由はいくつかあるが、具体的には、以下のようなことをブロックチェーンにより実現している。
- トークンによるインセンティブ設計により自律的なシステムを構築
- COLENDI によるデータの編集や閲覧が不可能なシステム構築
- ハッシュ化されたデータの署名をチェーンに記録し改ざん不可能な形式で保存
ブロックチェーンを用いることで、一言でいうと、自立分散的な中央管理者を信用せずに機能する仕組みを構築しているといえる。
その媒介として、トークンの存在がある。
このあたりについては、詳しく語り始めると相当長くなってしまうので、もっと詳細が気になる方はホワイトペーパーをご確認いただきたい。
類似サービス
COLENDI の類似サービスとしては、Tala や Bloom が挙げられる。
Tala は、2011年創業のスタートアップで、発展途上国向けにクレジットスコア及びレンディングを提供している。2019年2月時点で、ケニア、タンザニア、フィリピン、メキシコ、インドでサービス提供をしている。
すでに$109Mを調達し、Tala を通して融資を受けた人は200万人を超える。
ブロックチェーン技術を活用しているわけではないが、グローバルなクレジットスコアという観点では、現在最も広く利用されているサービスといえるだろう。
Bloom については、クレジットスコア×ブロックチェーンということで、まさに COLENDI と同じ領域で展開をしているスタートアップだ。
2017年創業ながら、2019年2月6日の US App Store Utility App で TOP10 入りを果たすなど、急成長スタートアップとして注目だ。
まとめ
「グローバルなクレジットスコア」というのは、身近な例でもその必要性を感じることがある。
たとえば、筆者の経験でいうと、米国留学をした際に、米国でのクレジットヒストリーがないために銀行口座の作成やクレジットカードの作成が困難であった。
ボードレスな信用スコアというのは、今後さらに「国」という枠を超えてビジネス及び生活が進行していくことを考えると、そのニーズは増加していくものと考えられる。
COLENDI については、まだ実用的なサービスとは言いがたいが、今後の動きに注目していきたい。