米国で、「信用スコアインフレ」への懸念が指摘されはじめている。
米国で9割以上のシェアを占める「FICOスコア」の平均値は、ここ10年で10ポイント以上上昇しているのだ。
これが「信用力の高まり」を表すのであれば問題ない。ただ、これが「信用力の過大評価」であれば、それはレンディング事業者にとって「潜在的リスクの高まり」を意味する。深刻な問題だ。
本記事では、米国で発生している「信用スコアインフレ」について、事象の説明と要因、解決策について考えていこう。
信用スコアインフレとは?
「信用スコアインフレ」とは、米国の信用スコア(クレジットスコア)の平均値がここ10年ほどで10ポイント以上上昇している事象について指す言葉だ。
英語記事では、「Credit Score Inflation」というワードで出てくる。
米国で9割以上のシェアを占める FICO の信用スコアの平均値は、2005年10月時点の688から、2017年4月には700を超える水準まで上昇している。
この事象に対して、ゴールドマン・サックスとムーディーズ・アナリティクスは、ここ10年ほどの経済成長に伴い信用スコアが「グレードインフレーション(Grade Inflation)」を起こしていると指摘している。
ムーディーズ・アナリティクスの調査によると、2006年と比較して、
- スコア740以上の人は1,500万人増加
- スコア660以下の人は1,500万人減少
という顕著なインフレ現象が起きている。
これが、本当に「信用力の向上」を表すのであれば問題はない。ただ、「信用力の過大評価」であれば、貸金業者にとっては「潜在的リスクの高まり」を意味する。
信用スコアインフレの要因は?
では、この信用スコアインフレの要因はどこにあるのだろうか?
複合要因ではあるが、最も寄与度が高いと考えられているのが「好調な経済状況によりクレジットヒストリーが改善していること」である。
米国では、ここ10年間で、リーマンショックを挟んだとはいえ、経済は右肩成長を続けている。この経済成長に支えられる形で、個人のクレジットヒストリーも改善され、信用スコアの上昇につながったとする見方だ。
その他には、CreditKarma のような信用スコアのモニタリングツールも普及してくるなど、信用スコアへの知見が蓄積されていることも要因の1つかもしれない。
国民の中で、「◯◯をすると信用スコアが下がってしまうから避けよう」とか「△△をすれば信用スコアが上がるからやってみよう」といった行動が起き、それが信用スコアの平均値上昇につながっとする見方である。
もし、この信用スコアインフレの要因が後者であれば、問題はない。FICOがうまく指針を示すことで、国民の生活行動が改善されたことになるからだ。
一方で、もし、要因が前者の経済成長にあるのだとすれば、これから経済成長が鈍化あるいは停滞した際には、過剰評価のツケが回ってくる可能性がある。すなわち、デフォルト率が想定以上に上がってしまうシナリオが考えられる。
信用スコアインフレの解決策
では、この信用スコアインフレに対して、どのような策を講じればよいのだろうか?
一言でいえば、「信用スコア以外の変数も考慮する」ことが勧められている。
これについて、ゴールドマン・サックスアナリストの Marty Young 氏は、以下のように語っている。
Every credit model that just relies on credit score now -- and there’s a lot of them -- is possibly understating the risk, there are a whole bunch of other variables, including the business cycle, that need to be taken into account.
(意訳)クレジットスコアのみに依拠しているあらゆる信用モデルは(そのようなモデルは多いのだが)、リスクを過小評価しているかもしれない。ビジネスサイクルなど、クレジットスコア以外に考慮すべき変数は数えきれないほどある。
また、FICOのスコアリング及び予測的分析における Vice President を務める Ethan Dornhelm 氏も以下のように語っている。
We recognize there’s a lot more context you can obtain beyond a consumer’s credit file. We do not think that score inflation is the issue, but the risk layering on underwriting factors outside of credit scores, such as DTI, loan terms, and even trends in macroeconomic cycles, for example.
(意訳)消費者の信用調査以外にも様々なコンテキストがあると我々は認識している。信用スコアインフレが問題ではなく、信用スコア以外の与信審査の変数に潜んでいるリスクに問題がある。たとえば、DTI(返済負担率)やローン条件、マクロ経済サイクルのトレンドといったものだ。
このように、信用スコアインフレの要因がマクロな経済状況にある場合には、それを信用スコア自身で考慮することは難しいため、そのような外部変数があることを認識しておく必要がありそうだ。
まとめ
本記事では、米国で指摘されている「信用スコアインフレ」について解説をしてきた。
「信用スコアを過度に信用する」でのはなく、信用スコアはあくまでも人単位の信用判断として用い、それと合わせて、マクロな変数についても考慮するという方針がよいのかもしれない。
信用スコアによる融資の歴史が30年ほどになる米国ならではの問題ともいえるだろう。
日本でも今後、信用スコアによる融資がはじまり何年か経った後に同様の課題が出てくるかもしれない。