様々なデータを元に個人の信用をスコアリングした「信用スコア」が、日本でもついに本格的に広まろうとしている。
果たして、信用スコアの普及した世界で我々の生活はどのように変わるのだろうか?
それは、私たちを幸せにしてくれるのか?それとも、そこにはディストピアが待っているのか?
本記事では、そのような「信用スコアのある世界」を描いている、おすすめの本とドラマをご紹介していこう。
気になる作品があれば、ぜひ実際に読んでみて、あるいは視聴してみてほしい。
「信用スコア」について詳しく知りたい方は「信用スコアとは?信用スコアの仕組みやメリット、利用データについて」をご覧ください。
星新一『声の網』
まずは、星新一さんの『声の網』という作品。
こちらの作品、驚くべきことに、1970年の著作ながら、日本で2019年から開始される「情報銀行」という機関が中心となって話が進んでいく。
今日本で認定制度が作られている「情報銀行」とはもちろん思想や詳細は異なるのだが、「お金ではなく情報を預ける銀行のようなもの」という意味では近しいといえる。
本作品では、電話機が全能型AIのような存在となり、彼(AI)にすべての情報が掌握されている世界が描かれている。
信用スコアのようなスコアリングが直接的に現れるわけではないが、個人に関するあらゆるデータが信用スコアに組み込まれる様になった場合のディストピアを描いているようにもとれる内容だ。
また、話自体は、星新一さんらしく「ショート・ショート」で進んでいき、各ショート・ショートが全体として1つの世界を描いているという構成。
星新一さんの先見性を目の当たりにしたいという方にもぜひおすすめしたい一冊だ。

- 作者: 星新一
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2006/01/25
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ジョージ・オーウェル『一九八四年』
星新一さんに続いて、ジョージ・オーウェル氏の『一九八四年』。こちらは、さらに古い1948年の著作だ。
よく「監視社会」について議論される際にたとえ話に出てきたりするので、聞いたことのある方も多いかもしれない。
市民は常に「テレスクリーン」と呼ばれる双方向テレビジョン、さらには町なかに仕掛けられたマイクによって屋内・屋外を問わず、ほぼすべての行動が当局によって監視されている社会を描いたものだ。
フーコーのいうところの「パノプティコン」という言葉が当てはまる。
政府は、不都合な過去の真実を改ざんさせ、反逆者を封じ込め、自らにとって都合の良い世界を築いていく。そのような社会に疑問を持つ人もいたりいなかったり。。
信用スコアに限らず、現代では監視カメラがAI顔認証で個人を特定し、だれがどこで何をしているかといったことが分かる社会になってきている。特に、中国では、街中に監視カメラが設置されており、市民の行動データが取得されているともいう。
そのようなデータが「もし悪用されたら?」という仮定を思考する上で、このような著作が思考のベースとなるかもしれない。
中国では、既に以下のようなニュースも出てきており、そう的はずれな仮定ではないはず。 headlines.yahoo.co.jp
教養としても読んでおきたい一冊だ。
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- 作者: ジョージ・オーウェル,高橋和久
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/07/18
- メディア: ペーパーバック
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また、マンガで読破シリーズでも出ているので、気軽に読みたい方はこちらからどうぞ。

- 作者: ジョージ・オーウェル,バラエティ・アートワークス
- 出版社/メーカー: イースト・プレス
- 発売日: 2013/08/02
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Netflix ブラックミラー『Nosedive (ランク社会)』
最後に、Netflix で人気のSFドラマシリーズ「Black Mirror(ブラックミラー)」より、『Nosedive(邦題:ランク社会)』という作品。
Black Mirror(ブラックミラー)は、Netflix の公式サイトより引用すると以下のようなシリーズ。
急速な進化を遂げたテクノロジーがもたらす歪みと人間の醜い業が交わる時、そこに広がるのは世にも不思議で奇妙な世界...。オムニバスで綴るSFシリーズ。
分かる人には分かる表現でいうと、現代テクノロジー版のトワイライト・ゾーンとも呼ばれている。
その中で、『Nosedive(ランク社会)』は、その名の通り、人々がスコア化され、さらにスコアがARのような形ですべての人がオフラインの場で閲覧できる状態になっている世界を描いている。
人々は0〜5点でスコア化されており、スコアの高い人から高い評価をされると、自分も高評価になりやすい。一方で、低スコアの人と絡んでしまうと自分も低スコアになりやすい。
このような社会において、人間はどのような行動をとるのか?
ちなみに、原題の『Nosedive』 は「急落」の意味。
本当にありそうでなんだか怖くなってくる世界で、非常に示唆に富んだ作品となっている。
補足をしておくと、中国の芝麻信用も日本の信用スコアも、本人の許諾なしに他人に共有されることはない。その点、この作品におけるARですれ違う人々のスコアが分かるといった世界とは大きく異なる。
Netflix は30日無料もあると思うのでぜひ見てほしい。
↓こちら予告版。
『アントフィナンシャル』
『アントフィナンシャル』は、中国の信用スコア「芝麻信用」を運営する企業「アントフィナンシャル」について描いたビジネス書だ。
こちらの書籍では、アリババ系列のアントフィナンシャルが、どのように各種金融サービスを立ち上げてきたのかが詳細に記述されている。
そして、その中の1つとして、「芝麻信用」の立ち上げについても詳述されており、非常に勉強になる内容だ。
信用スコアについて深掘りしたい方、また FinTech のビジネスを考えている方には必ず読んでほしい一冊である。

アントフィナンシャル――1匹のアリがつくる新金融エコシステム
- 作者: 廉薇,辺慧,蘇向輝,曹鵬程,永井麻生子
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2019/01/25
- メディア: 単行本
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補足とまとめ
いずれの作品も、どちらかというと信用スコアが悪い方向に進んでいってしまった場合のディストピアを描いた内容となっている。
これは筆者あるいは作者による「警鐘」と捉えることができるだろう。
SFストーリーでありがちな、便利なテクノロジーの怖い一面にフォーカスした作品というわけだ。
ここで、実際に信用スコアが普及してきている中国に目を向けてみよう。
中国では、アントフィナンシャルの信用スコア「芝麻信用」が生活の中に入り込んできている。
例えば、ライドシェアでバイクを借りる際にスコアが高ければデポジットが必要なくなったり、Airbnb で部屋を借りる際にホストと借り手の双方が信用スコアを公開したりというように、見知らぬ人同士がお互いを信用し取引をなめらかにすることに役立っている。
一方で、信用スコアが下がると生活に支障をきたすことから、犯罪の抑制につながっているというニュースもある。
現時点では、便利な方向に活用されている信用スコアだが、もしあらゆる行動がスコアに影響してくるとしたら、常にスコアを上げるような言動を取らねばならず、不自由な生き辛い世の中になってしまうのではないかという懸念も出てくる。
このように負の側面、負の可能性にも配慮することは、制度やプロダクトの設計を進めていく上で必須となってくるだろう。
色々と書いたが、筆者はこれから日本でリリースされる各信用スコアサービスが楽しみで仕方がない。どのようなサービスとなってくるか、今後の動きに期待したい。
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信用スコア全般については、以下の記事にまとめている。
「信用スコアとは?」という疑問をお持ちの方は、ぜひチェックしてみてほしい。