人材管理システム「カオナビ」を運営する株式会社カオナビは、19年3月15日、マザーズへの上場を果たした。
1株発行価格1,980円に対し、初値3,970円、終値3,440円で大きく上回る結果から分かるように、市場からの大きな期待が伺える。
本記事では、カオナビの目論見書1を元に、サービス概要、攻めている領域、さらにカオナビの成長戦略としての「人材データベースによるプラットフォーム化」について解説していこう。
カオナビとは?
まず、「カオナビとは何か?」というところから解説していこう。
「カオナビ」は、株式会社カオナビが運営する「人材管理システム」である。
特徴としては、上の画面イメージのように、社員の「顔が見える」画面を提供しており、直感的に操作できることが挙げられる。
もちろん、顔写真以外に様々なデータを入れることができ、たとえば、経歴やスキルや趣味なども入れることで社員同士の理解を深めたり、カオナビ上で評価を行うこともできる。
その他にも、人材マネジメントに関する様々な機能を用意しており、導入企業はそれぞれのニーズに合わせてそれらの機能を利用することができるようになっている。
ちなみに、導入企業数は、2019年1月時点で1200社を超え、成長率を見るとまだまだ伸びていきそうな勢いだ。
導入企業を見ると、みずほ銀行やANA、パナソニックなどの日本を代表する大企業もいれば、メルカリやGunosyなどの急成長ベンチャー企業にも広まっているところが分かる。
また、変わり種でいうと、ラグビーU20日本代表も導入先に名を連ねており、様々な組織体において利用できるツールとなっているといえるだろう。
「労務管理領域」ではなく「人材管理領域」
カオナビは、人材(HR)領域のサービスであるが、人材領域とひとえに言っても、様々なプロセスがある。
上図のように、人事評価や採用などの「人材管理領域」、勤怠管理や社会保険などの「労務管理領域」というふうに2分すると、カオナビは左側の「人材管理領域」に特化したサービスである。
この双方を網羅するようなサービスもあるが、カオナビでは人材管理領域にフォーカスすることで、その領域でのサービスクオリティを上げていく方針をとっている。
人材管理領域の中のさらに「人事評価」に特化したサービスとしては HRBrain というサービスがある。2017年1月のローンチながら、2018年8月時点ではすでに300社へ導入されている注目サービスだ。
右側の「労務管理領域」では、たとえば SmartHR というサービスがある。2018年2月時点で、導入社数は10,000を超え2、未上場ながら急成長を遂げている。
また、人材管理と労務管理の双方を兼ねる領域では、ネオキャリアの jinjer というサービスがある。jinjer についても既に5,000社以上が導入しており、大規模なサービスとなってきている。
SmartHR や jinjer と比較して、カオナビは導入社数は少なめな水準となっているが、それは「労務管理」のほうが企業として導入による改善幅が分かりやすく、導入が進みやすいという事情はありそうだ。
カオナビのプラットフォーム戦略
カオナビは、今後の成長戦略として、人材データベースを軸にしたプラットフォーム化を掲げている。
上図のように、現在、HRテクノロジー領域は、採用管理・給与計算・求人広告・社内SNSといったそれぞれの機能が、サービス毎で独立している。
このような状況に対して、カオナビでは、カオナビの人材データベースを中心に外部のHRテクノロジーサービスと連携しプラットフォームの立ち位置をとる。そうすることで、今までバラバラであった作業を効率化することができ、生産性の向上につなげていこうという戦略だ。
では、人材データベースの連携により、どのようなサービス効率化が考えられるだろうか?
たとえば、リクルートマネジメントソリューションズが運営する「SPI3」との連携では、SPI3における性格診断データをカオナビの人材データベースに組み込むことができる。そうすることで、人柄や性格の特徴をもとに、人事配置を考えることができるようになる。
また、「リクナビHRTech 転職スカウト」との連携による、「TALENT FINDER(タレントファインダー)」という機能も非常にユニークだ。
カオナビで対象の社員を決めて「こんな人がほしい!」というボタンをクリックすると、その人の社員情報をもとに募集要項を自動で作成してくれる。
そして、「リクナビHRTech 転職スカウト」のデータベースと連携することで、条件にマッチする候補者が表示され、応募者の管理についてもカオナビ上で行うことができる。
このように、カオナビの人材データベースを軸にプラットフォーム化していくことで、今までバラバラであった作業がカオナビをベースに管理されるようになり、今まで以上に利便性が増していくことが期待できるわけだ。
先述のネオキャリアの「jinjer」についても、1つのプラットフォームに様々な機能を集約していくことを志向している。
ただ、カオナビについては、いわゆる「オープンなプラットフォーム化」で外部の様々なサービスと連携していく方針である一方で、ネオキャリアの jinjer については、自社で全ての機能を提供する形式となっており、その思想には大きな違いがありそうだ。
オープンプラットフォーム化戦略をとるカオナビのほうが、より効率よく価値を提供していけるような気もする。
まとめ
本記事では、カオナビのマザーズ上場を機に、目論見書をベースにカオナビの概要及びプラットフォーム戦略について解説をしてきた。
人材領域のパーソナルデータ利活用は、まだまだこれから伸びていく市場だ。
カオナビは、様々なデータソースと連携し、また、そのデータの活用先も増やしていくとで、導入企業にとって本当に欠かせない存在となっていくだろう。
平成30年の12月期の決算では第3四半期時点で経常利益は1億円ほどの赤字ということだが、おそらく高い継続率と導入企業数の伸び率からすると、来季には黒字化も方針次第ではできる水準といえそうだ。
上場後のカオナビの成長にも、引き続き注目だ。