「ミニプログラム」という言葉を聞いたことがあるだろうか?
今中国では、「ミニプログラム」という「ダウンロードなしで使えるアプリ(のようなサービス)」が日常生活で当たり前のように使われている。
さらに、2019年6月には、日本でもLINEが「LINE mini apps」を発表し、まさに日本版ミニプログラムが誕生しようとしている。
本記事では、そんな「ミニプログラム」について、概要と各プレーヤーの状況について解説した上で、ミニプログラムの何が革命的なのかについて考察していこう。
ミニプログラムとは何か?
まず、「ミニプログラム」とは何か、解説していこう。
ミニプログラムとは、簡単にいうと、「ダウンロードなしで使えるアプリ」である。では、ダウンロードなしでどのようにして利用するのか?
答えは、WeChat や Alipay といった既存のアプリの中から、利用したいミニプログラムを選択して利用する手法だ。今までのアプリとミニプログラムを比較すると、以下のような違いがある。
- 今までのアプリ:AppStore や Google Play Store からダウンロードをして利用する
- ミニプログラム:WeChat や Alipay といったアプリ内で選択してダウンロードせずに利用する
言葉だけでは分かりにくいので、以下の遷移図をご覧いただきたい。このように、アリペイの「友達」タブにミニプログラムの導線が用意されており、そこから様々なミニプログラムを利用できるようになっている。
ミニプログラムの動作イメージも含めて、簡単にキャプチャ動画も撮影したので、合わせて見ると理解が深まるかもしれない。
このように、ダウンロードする手間を掛ける必要がなく、簡単にアプリが利用できるというのはユーザー体験として大きなイノベーションではないだろうか。「あ、ここまでできてしまうんだ」というのが筆者の第一印象である。
ミニプログラム参入プレーヤーとその状況
では、次に、ミニプログラムのプラットフォーマーとして参入しているプレーヤーについてまとめていこう。
大きく分けると、先行プレーヤーであり先頭を走るテンセント(WeChat)、それを急ピッチで追うアリババ系列のアントフィナンシャル(Alipay)、そしてHuaweiやXiaomi等のスマホメーカー連合含めたその他に分けられる。
テンセント - WeChatMiniApps(微信小程序)
WeChat は、2017年にミニプログラムのサービスをリリースしており、この領域の第一人者だ。
下記の「WeChatミニプログラムのMAU推移」を見ると分かるように、2017年1月に6万程のMAUだったところから、2017年10月にMAU1億、2018年1月にはMAU4億を超える化け物級のメガサービスとなっている。
さらに、DAU2億を超える日もあり、まさに中国において日常的に利用されるサービスといえる。
2018年7月31日時点で、ミニプログラムの数は100万を超え、その開発に携わるエンジニアは150万を超えているという。
ミニプログラムの数が100万というのは、2017年の全世界の AppStore のアプリ数が210万、Google Play Store のアプリ数が360万という数と比較すると、もう近いところまで来ていることになる。それもこれだけの短期間で。まさに規格外のスピードだ。
アントフィナンシャル - AlipayMiniApps
アリペイによるミニプログラムのリリースは、2018年7月31日。WeChat から1年半程遅れてのスタートとなった。
ただ、「今後3年間の最も重要な戦略の1つ」と位置づけ、10億元(150億円)ほどのキャンペーン予算のもと、臨戦態勢となっている。
また、アリペイの場合には、中国最大の信用スコアサービスである「芝麻信用」を保有していることから、ミニプログラムでは芝麻信用のスコアへのAPIアクセスが可能となっており、周辺サービスが充実していくことも予想されている。
今のところMAU等の具体的な数字は出ていないが、今後の動向に注目だ。
その他のサービス
その他の動きとしては、まず、Huawei(ファーウェイ)、OPPO、Xiaomi(シャオミ)等のスマートフォンメーカー連合による「快応用(クイックアプリ)」は1つ注目だ。
また、BAT(Baidu、Alibaba、Tencent)の一角であるバイドゥ(百度)の「軽応用」もリリースされている。最後に、ニュースアプリである「Toutiao」も参入を発表しており、これらのうちからどこが頭一つ抜け出てくるかは1つ楽しみなところだ。
さらに、TikTok を運営する Bytedance(バイトダンス)も、このミニプログラムのプラットフォームを提供を発表した。エンタメ系コンテンツのミニプログラムが今後充実してくるのか、要注目だ。
ミニプログラムは何が革命的なのか?
では、この「ミニプログラム」はどこが革命的なのか?
大きく分けると、以下の3点に集約される。
- アプリをダウンロードせずに利用することができる
- オフライン世界とアプリをつなげる架け橋
- iOSやAndroidと対抗する第三勢力となる可能性
アプリをダウンロードせずに利用することができる
この点については、「ミニプログラム」のコアとなる部分だが、まずこのユーザー体験の新しさが挙げられるだろう。
もちろん、ネイティブアプリと比較して、高度なゲームアプリ等のグラフィックや動きの滑らかさが大幅に求められるアプリは実現できない、プッシュ通知を打つことが出来ないといった制約はある。
しかし、ダウンロードをせずにサクッと使えるという体験は、アプリを使ってみるハードルを圧倒的に下げてくれるし、友人へURLを投げるかのごとくミニプログラムを紹介することができるのは心理的な観点でも影響は大きい。
WeChat ミニプログラムの利用地域をみると、裕福な地域よりも貧しいあるいはやや貧しい地域において、よりミニプログラムの利用頻度が高いというデータもある。
すなわち、貧しい地域でデータ利用上限が低い通信プランの人たちにとって、アプリダウンロードはデータ容量を喰ってしまうので消極的になるが、このミニプログラムであれば躊躇なく利用できるというわけだ。
このように、ユーザー体験の観点、データ容量の観点において、ダウンロードせずに利用できるというのは革命的といえるだろう。
オフライン世界とアプリをつなげる架け橋
「ミニプログラム」を見つける方法として、以下の3つが用意されている。
- WeChat や Alipay アプリ内の検索
- QRコード読み取り
- 近くのミニプログラム("Mini Programs near you")
このうち、QRコード読み取りと近くのミニプログラム("Mini Programs near you")については、特にオフラインでの利用を意識されたものだ。
例えば、バス停でQRコードを読み取ることで、バスのミニプログラムが立ち上がり、次のバスの時刻がわかるだけでなくさらにその場で決済もできるといった世界観だ。もちろん、決済は Alipay や WeChat Pay によりシームレスに行うことができる。
このように、オフラインの様々なシーンに合わせてミニプログラムが利用されるという、今までよりもニッチな利用ケースは、ダウンロードを必要としないミニプログラムの特徴の1つといえる。
ハンジーミンは「決済の戦いはシーンの戦いである」という言葉を残している。つまり、単一のサービスでユーザーを縛っておくことはできないが、シーンのあるところにはユーザーの決済行為がある、ということだ。
アリペイとWeChat Payの決済覇権争いに学ぶプラットフォーム戦略 - dataway
以前の記事で、アリペイの指揮をとるハンジーミンが「決済の戦いはシーンの戦いである」と言及したと触れたが、その文脈でいうと、QRコードからミニプログラムを起動するというアクションはまさにシーンの拡大だといえる。アリペイの一貫した戦略の一部というわけだ。
補足として、一般的なネイティブアプリとの補足をしておくと、独立したネイティブアプリの場合だと、アプリをインストールしたあとに決済情報との紐づけを行う必要があるのに対して、ミニプログラムであればQRコードで簡単にミニプログラムが立ち上がり決済については Alipay や WeChat Pay をそのまま利用できるので、文字通りシームレスなユーザー体験となる。
まさに革命的と呼ぶにふさわしいユーザー体験の違いだろう。
iOSやAndroidと対抗する第三勢力となる可能性
最後に、iOS や Android といったプラットフォームとほぼ独立してサービス展開をしていくことができる点が挙げられる。「対GAFA」ともいうこともできる。
ユーザーは、Alipay や WeChat のアプリをインストールすれば、あとはそのアプリ内でほぼ全ての行動が完結する。そうして、ユーザーのデータは全てアントフィナンシャルやテンセントに蓄積されていく。
今度は、そのデータを活用して、たとえば芝麻信用のようなさらに便利なサービスを提供していくことができる。そうすることで、1アプリだったアリペイや WeChat Pay は、徐々にプラットフォーマーへと変貌を遂げていく。
Alipay や WeChat 自身のアプリは AppStore (iOS)や Google Play Store(Android) からインストールする必要があるが、ユーザーの気持ちとしては、Alipay や WeChat を第二のOSだと感じることだろう。WSJが言うように「OSの中のOS」というわけだ。
まとめ
本記事では、「ミニプログラム」について解説をしてきた。
中国のこの動きは、果たして日本にも来るのだろうか。芝麻信用に代表される信用スコアについては、2019年にメルペイやヤフーなど様々な企業が参入を予定している。これと同じ動きで、中国で流行った数年後に日本にもそのトレンドが来るのだとしたら、2020年くらいに日本でも「ミニプログラム」が流行ってくるのかもしれない。
プレーヤーとしては、LINEが第一候補だと考えている。LINEは自社内でミニプログラム的なアプリを既に提供しているからだ。たとえば、「LINEデリマ」等は、LINEアプリ内からアクセスが可能なアプリで、決済は LINE Pay でシームレスに連携がされている。これが第三者の開発者に提供されると、「ミニプログラム」ということになる。
さらに、WeChat と同様に国民の大多数が利用するメッセージングアプリを保有している点も大きい。
LINEは、2018年に、その事業領域を広げていくべく、いくつかのサービスを発表した。ヘルスケアしかり、少額投資しかり、保険事業然りである。このような流れを加速させる上で、ミニプログラムというオープン化戦略をとっていくというシナリオは十二分にありうるだろう。
果たして、日本にもこの波は来るのか。引き続き注目していきたい。
【更新】2019年6月27日、「LINEカンファレンス2019」にて、LINEが「LINE mini apps」を発表した。オフライン戦略のうちの1つだ。こちらは、別途記事にまとめていこう。
関連記事
WeChatミニプログラムの最新ランキングについてのまとめ。実際に、どのようなミニプログラムが流行っているのか要チェック! www.dappsway.com
アリペイのプラットフォーム戦略についてが分かる記事。 www.dappsway.com
ミニプログラムの開発手法についてまとめた記事。 www.dappsway.com