Apple は、現地時間5月22日に「Privacy Preserving Ad Click Attribution(プライバシー保護型広告クリックアトリビューション)」という新たな広告計測技術を発表した。
Privacy Preserving Ad Click Attribution では、クロスサイトでユーザーデータが送信されている現行の広告計測を問題とし、ユーザープライバシーを保護しながら、広告クリックアトリビューションを可能にしている。
Apple は、GAFAの中でも、ユーザープライバシーについては一貫して保護側の立場をとっている。今回の Privacy Preserving Ad Click Attribution もその流れを継ぐものとなっている。
本記事では、Apple の解説記事をもとに、Privacy Preserving Ad Click Attribution の仕組みとアドテク業界への影響について簡単に解説していこう。
- Privacy Preserving Ad Click Attribution の原則
- Privacy Preserving Ad Click Attribution の3つのステップ
- ステップ1:広告クリックを蓄積する
- ステップ2:広告クリックに対してコンバージョンをマッチさせる
- ステップ3:広告クリックアトリビューションデータを送信する
- アドテク業界の実際の影響
- まとめ
Privacy Preserving Ad Click Attribution の原則
まず、Privacy Preserving Ad Click Attribution を作るにあたって守られている原則について紹介しよう。
基本原則として、以下のような点がある。
- ユーザーは、広告クリックアトリビューションを目的としてサイト横断でユニークに特定されるべきではない
- ユーザーが訪問したサイトのみが広告のクリック及びコンバージョン計測に関わるべき
- ブラウザーはユーザーのために動作すべきであって、広告クリックアトリビューションのレポートの際も最大限プライバシーを保護すべき
- ブラウザーベンダーはユーザーの広告クリックやコンバージョンについて学習をすべきではない
このように、Privacy Preserving Ad Click Attribution では、基本的にユーザーのプライバシーを保護することを第一に設計されていることが分かる。
Privacy Preserving Ad Click Attribution の3つのステップ
Privacy Preserving Ad Click Attribution の仕組みは、以下の3つのステップに分けることができる。
- ステップ1:広告クリックを蓄積する
- ステップ2:広告クリックに対してコンバージョンをマッチさせる
- ステップ3:広告クリックアトリビューションデータを送信する
以下では、これらの3つのステップについて、それぞれ解説していこう。
ステップ1:広告クリックを蓄積する
まずは、ブラウザに広告クリックのデータを蓄積する。
今回、リンクタグに新たに、「adDestination」と「adCampaignID」という2つの属性がサポートされることになった。
- adDestination:リンク先のドメインを指定
- adCampaignID:広告キャンペーンのIDを挿入
イメージとしては、以下のようになる。
<a href="..." adDestination="shop.example" adCampaignID="55">...</a>
これらの情報をもとに、adDestination で指定されたドメインのサイトにリダイレクトがされた場合に、ブラウザは広告クリックの情報を蓄積する。期間は7日間。
なお、この際、上記サイトでいう search.example(広告掲載サイト)も shop.example(広告主サイト)も、蓄積された広告クリックのデータを読み込むことはできず、その存在を認識することもできない。
adCampaignID(広告キャンペーンID)については、0〜63の64個の中から指定することができる。それ以上の細かな粒度の指定は、個人ユーザーの特定につながるため、不可となっている。
ステップ2:広告クリックに対してコンバージョンをマッチさせる
次に、広告主側のサイト(shop.example)でコンバージョンが起きたことをブラウザに通知する。
コンバージョンといっても様々考えられるが、上図のAppleの例では、ECでカートに商品を入れたことをコンバージョンとしている。もちろん、購入をコンバージョンとしてもよい。
この際には、レガシーな広告トラッキングでも用いられるトラッキングピクセルが用いられている。
広告主サイト(shop.example)でコンバージョンが発生すると、トラッキングピクセルにより、広告掲載元サイト(search.example)にリクエストが送られる。
それに対して、HTTP Redirect され、ブラウザに対して、実際にコンバージョンが起きたことを知らせることができる。
この際に、ストアされている広告クリックのデータから、Source と Destination のペアが正しければコンバージョンと認識するという仕組みだ。
ステップ3:広告クリックアトリビューションデータを送信する
蓄積された広告クリックのデータとコンバージョンデータがマッチできたら、その後、24〜48時間のランダムなタイマーがセットされる。
タイマーが終了すると、ブラウザはステートレスなPOSTリクエストを送信する。これにより、コンバージョンのトラッキングを通知する。
タイマーにより24〜48時間というランダムな遅れを生じさせているのには、以下のような理由がある。
- 正確なコンバージョン時間を把握できないようにして、推測的なユーザープロファイリングができないようにする(ランダムな遅れを採用している理由)
- 複数コンバージョンが発生する場合に、priority 属性をつけることで、優先度の高いコンバージョンのみを通知することを可能にする(24時間以上にしている理由)
このため、計測事業者サイドは、すぐにコンバージョンを検知することはできなくなる。
これが、Apple の新広告計測技術「Privacy Preserving Ad Click Attribution」の全容だ。
アドテク業界の実際の影響
Privacy Preserving Ad Click Attribution によって、どのような実務的な影響があるだろうか?
まず、この Privacy Preserving Ad Click Attribution は、現在 Safari のプレビュー版のみで利用が可能であり、通常版では実行されていない。
また、全体適用となった場合にも、Safari のみが影響を受けることになる。ITPと同じ立ち位置として考えればよい。
Safari における影響としては、以下のような点があげられる。
- リアルタイムでの広告計測ができなくなる(24〜48時間の遅れが発生)
- cookie id 単位の計測はできなくなり、最大64のキャンペーンID単位の計測に
- adDestination や adCampaignID といった属性の追加対応が必要になる
これによる副次的な影響として、レポートシステムの改修等は必要になってくる可能性がある。いわゆる「遅れコンバージョン」がデフォルトになることが想定される。
配信アルゴリズムに関しては、機械学習によるアルゴリズムであればそこまで大きな影響はないかもしれないが、注意する必要はありそうだ。
また、Apple は W3C を通して Privacy Preserving Ad Click Attribution をウェブ標準にすることを提案しており、他ブラウザへの影響も可能性としてなくはない。
まとめ
本記事では、Apple の新広告計測技術「Privacy Preserving Ad Click Attribution」の仕組みと影響についてまとめてきた。
ITPのときにそうであったように、また抜け道を探すイタチごっこの戦いになるのかもしれないが、何かしらの対応は必要になってくるだろう。
プライバシー保護を謳う Apple と広告ビジネス主体の Google、この両者の争いがどうなっていくのかという点でも注目だ。
アドテク業界に3年ほどいた身として、この領域の今後については気になるところである。
Privacy Preserving Ad Click Attribution についてはまだ情報も少ないので、今後さらに情報がでてきたら追記していきたい。