dataway

パーソナルデータ利活用の未来を考えるメディア

ケニアで信用革命を起こした「Tala」の仕組みと創業ストーリー

Tala創業者のShivani Siroya氏

世界では、約30億の人々が銀行口座を持たないために「信用がない」とされ、まともな金利でお金を借りることができない。

この課題に対して、「スマホデータ」という切り口で活路を見出したのが、「Tala」というサービスだ。

ケニアでサービスを開始し、既に130万を超える人々に適切な金利でローンを提供している。現在では、5カ国に展開もしている。

直近で PayPal からの資金調達も果たし、新興国における金融サービスとして、今最も注目されているスタートアップのうちの1つである。

本記事では、そのような「Tala」の仕組みと創業者シバーニ・シロヤの創業ストーリーに迫っていこう。

Tala(タラ)の会社概要

ケニアを中心に個人向け融資事業を展開するTala

まず、簡単に「Tala(タラ)」という会社について、解説していこう。

Tala は、2011年にシバーニ・シロヤ氏により創業された会社だ。これまでに、公開されているものだけで1.09億ドル(約119億円)を調達している。

2018年4月に Revolution Growth Fund が5000万ドル(約55億円)、2018年10月には、金額非公開だが PayPal も出資を発表し1、今波に乗っているスタートアップだ。

創業者のシバーニ・シロヤ氏は、インド出身の女性起業家であり、その創業までのストーリーには非常に共感させられものがある。

Tala創業者シバーニシロヤの創業ストーリー

シバーニ・シロヤ氏(TechCrunch Disrupt NY 2017 - Day 1)

シロヤは、インドのウダイプルで育ち、その後アメリカへ渡り、ブルックリンに落ち着いた。

大学を卒業すると、シティグループでM&Aに関わり、その後同じく金融系のUBSに移り株式調査の業務に携わった。

ただ、金融の仕事をする中で、シロヤの心の中には「何か世界に役立つことをしている組織で働きたい」という思いがあったという。

そのような思いを胸に秘めつつ日々仕事をしていた2006年、グラミン銀行で有名なモハマド・ユヌス氏がマイクロファイナンスとマイクロコンセプトによりノーベル賞を受賞した。

この話を耳にしたシロヤは、すぐに退職の意を告げ、国連人口基金に入った。

シロヤは、国連人口基金に在籍している間に、2年半をかけて3500人以上の新興国の人々に話を聞いた。

彼らの話によると、お金を借りたいと思っても、正式なローンとしてお金を貸してくれる金融機関はなく、高利貸しに頼らざるをえないという明確な課題が見つかった。

シロヤは、その原因は、結局は「信用」の問題であるという結論に達した。

「信用を持たない個人に、それを持たせるにはどうしたらいいのだろう?」

シロヤが目につけたのはスマートフォンのデータ
シロヤが目につけたのはスマートフォンのデータ

そこで、目をつけたのが「スマートフォン」だ。

新興国では、約10億人の人がスマートフォンを利用している。彼らにとってスマートフォンはインフラであり、電気代や駐車場代の支払いまでスマートフォンで行うなど、スマートフォンは人々の生活の大部分を表すものであったわけだ。

そのスマホのデータを利用すれば、精度の高い信用スコアリングができるのではないか?この着想から生まれたのが「Tala」というサービスである。

Talaが銀行口座を持たない人に融資できる理由

では、Tala では具体的にどのようにして、信用を担保することができているのだろうか?

Talaの仕組み
Talaの仕組み

Tala では、スマートフォンから1分以内に1万件以上のデータポイントを収集して、その持ち主の返済能力と返済意思を測ることができるという。

では、どのようなデータが利用されているのか?シロヤは以下のように語っている。

その人の行動面に注目します。たとえば、今どんな消費習慣があるか?継続的な収入があるか?どんなアプリを使っているか?

具体的にリストアップすると、以下のようになる。

  • テキストメッセージ履歴
  • 通話履歴
  • 商業的な取引
  • アプリの利用履歴

たとえば、テキストメッセージや通話履歴からは、人脈の広さが分かる。人脈の広さは、借り手にとって、強い信頼のシグナルになるという。

Tala の実績によると、以下のような傾向があるという。

  • 通話時間が4分を超えると、その人間関係は固く、信頼度が強いと思われる
  • 58人を超える人と連絡をとっていると、より安定した借り手になる傾向がある

たしかに、通話時間の長さは人脈の深さを表すであろうし、連絡している人の数が多ければそれだけ人としての信頼があると考えることもできる。

伝統的なクレジットヒストリーを持たない人に対しても、「スマートフォンのデータ」という新たな活路を見出し、データの蓄積と融資の実績を重ねることで、今の Tala があるというわけである。

130万人を超える人々にローンを提供

2011年の創業以来、Tala はケニアで130万を超える人々にローンを提供し、その総額は3億ドル(約330億円)に及んでいる。

与信枠は、10ドル〜500ドルの少額の貸付がメインになっている。

これまで銀行では貸付ができなった層を対象としているが、それでも返済率は9割を超える水準になっているという。これは、まさに Tala の信用スコアリングの成果だといえるだろう。

TRUST 世界最先端の企業はいかに〈信頼〉を攻略したか』によると、Tala は、ケニアで5番目に利用者の多いアプリになっているようだ。バイブルアプリ、Facebook、Twitter、WhatsAppに次ぐ5位ということで、それだけ生活に根付いたサービスになっていることがわかる。

Tala は世界5カ国で展開している
Tala は世界5カ国で展開している

Tala はケニア以外に新興国への展開もはじめている。2019年4月時点で、タンザニア、フィリピン、メキシコ、インドへの進出を果たしている。

地域がうまく分散していることから、今後の世界進出への第一歩というふうに見ることもできるだろう。

まとめ

本記事では、Tala の仕組み、創業ストーリー、今後の展開について解説をしてきた。

「クレジットヒストリーがないために融資を受けることができない人」へのアプローチは、米国のFICOや中国の芝麻信用など、様々なサービスが提供を開始している。

その中で、Tala は新興国におけるスマホの普及に着目し、精度の高い信用スコアリングを可能にした。

同じく新興国への融資を行っている Cignifi では、同じスマホでも、深夜の通話や長電話はデフォルト率が高まる傾向にあるといった時間の傾向にも目をつけている。

このように、今あるデータをどのような角度で捉え変数として組み込んでいくのかは、工夫のしどころである。

日本では、どのようなデータをどのような軸で捉えるべきか、考える価値がありそうだ。

また、同じくアフリカ発の信用スコアリング融資のサービスとして「JUMO」にも注目が集まっている。合わせて抑えておきたい。