dataway

パーソナルデータ利活用の未来を考えるメディア

米ターゲット社の「妊娠予測スコア」が示すビッグデータの可能性と怖さ

米ターゲット社の「妊娠予測スコア」が示すビッグデータの可能性と怖さ

米小売ターゲット社の「妊娠予測スコア」のエピソードをご存知だろうか?

2012年2月に New York Times 誌で取り上げられて以来、「ビッグデータの可能性」などの文脈でよく紹介されている。

おなじみなエピソードなだけに、もし聞いたことのないという方は、抑えておくとよいだろう。

本記事では、そんな米ターゲット社による「妊娠予測スコア」のエピソードについて紹介していこう。

米ターゲット社による妊娠予測スコア

まず、米ターゲット社による妊娠予測スコアのエピソードについて、簡単に説明していこう。

ターゲット社は、米国の総合スーパーで、日本のスーパーの巨大版と捉えてもらえればよいだろう。同じカテゴリーとしては、ウォルマートが有名だ。

米国小売大手ターゲット社は妊娠予測スコアを算出し、ゆりかごクーポンを送付した
米国小売大手ターゲット社は妊娠予測スコアを算出し、ゆりかごクーポンを送付した

そんなターゲット社のゲスト・マーケティング・アナリティクス部門では、消費者の購入アイテムから「妊娠予測スコア」を算出し、顧客の性別・年齢・購入データから出産予定時期を分析。そして、妊娠の時期にあわせて関連アイテムのクーポンを送付するサービスを行っていた。

妊娠中の顧客を対象としたのは、傾向が掴みやすいことに加えて、子供が生まれた後に母親は行き慣れたスーパーに通い続ける傾向にあるため、ロイヤルカスタマーになる可能性が高いという理由だ。

ターゲット社は、この妊娠予測スコアをもとに、ある高校生の娘がいる家庭に「ゆりかごのクーポン」を送付した。

すると、その女子高生の父親は「うちの娘はまだ高校生なのに、ゆるかごのクーポンを送るなんて、妊娠を勧めているのか!」と憤怒し、ターゲットの店舗に乗り込んだ。

ただ、その後、ターゲットの店舗マネージャーがその父親に謝罪の電話をかけると、驚くことに、その父親が反対に謝りはじめたのだ。

「私が知らないうちに、娘が妊娠していた・・」

そう、父親でも気づかぬ兆候を、ターゲット社の「妊娠予測スコア」は感知していたというわけだ。

どのような傾向から予測できたのか

では、どのようなデータから妊娠の予測を行ったのだろうか?

ターゲットのゲスト・マーケティング。アナリティクス部門では、妊娠傾向の高い顧客の購買の特徴として、以下のような項目を見つけ出した。

  • マグネシウムやカルシウムなどのサプリメント
  • 無香料の保湿剤を買いだめ
  • 無香料の石鹸
  • 大容量サイズのコットンパフ
  • 手指の消毒ローション
  • 大量のタオル

このような商品の購買傾向があると、妊娠傾向が高いという判断になるという。

ターゲット社では、2万点もの取扱い品目の中から、妊娠予測に効果的な25品目を機械学習により導きだし、そのアルゴリズムにより判断を下している。

個人情報の取扱いの問題はなかったのか?

この話を聞いた際に「気味が悪い」と感じる方もいるかもしれない。知らぬ間に自らの購買履歴が分析されており、それに関連したクーポンが自宅に届くというのは、人によっては「怖い」と感じるアプローチだ。

クーポンを自宅へ送付していることから、ターゲット社は今回の女子高生の個人情報をID単位で保有していたはずだ。具体的には、女子高生は毎回購入のたびにポイントカードを出していたのだろう。

ポイントカードの利用規約(terms-of-service)には、このような購買データの分析及びクーポン送付への利用についての記載があるはずだが、顧客の中にはそのことを知らない者も多いのが現実だ。

つまり、個人情報の取扱いにおいて、法的観点の問題はないが、レピュテーションリスクを考えると、明示的な許諾を得る情報銀行のような仕組みがあったほうが安全であったかもしれない。

まとめ

本記事では、米国小売大手ターゲット社の「妊娠予測スコア」にまつわるエピソードについて紹介してきた。

ビッグデータの可能性を示すエピソードとしてよく語られるが、実際に自分がこの女子高生の立場であったら、どのように感じるだろうか?

また、ビッグデータの解析から分かるのは、あくまでも予測だ。それを踏まえた「見せ方」の工夫も必要になるだろう。

パーソナライゼーションの一例として、議論を深めていきたいエピソードだ。