「信用スコア」は魔法の言葉のように使われることも多々ある。
「ビッグデータを活用して信用をスコアリングする」という仕組みは、たしかに先進的で魅力的に映る。
ただ、その本質は何かと考えたときに、信用のスコアリングそのものに注目が集まりすぎているようにも感じる。
それよりも、生活者に対する適切なインセンティブ設計が組み込まれた「信用のプラットフォーム」にこそ価値があるのでは、と思うのだ。
本記事では、そのような信用スコアの本質について考えていきたい。
精度の高い信用スコアだけでは足りない理由
良質なデータとアルゴリズムがあり、高精度な信用スコアが算出できれば、それで必要十分だろうか?
高精度な信用スコアがあれば、たしかにその人の信用度合いを測ることはできる。そのため、スコアの高い人に何らかの特典を与えるといったことはできる。
ただ、不正等の悪い行為を抑止する方向には働きにくい。たとえ不正を行っても、その信用スコアを捨てて別のサービスに移ればよいとなってしまうからだ。
つまり、高精度な信用スコアは、必要条件ではあるけれども十分条件ではない。
悪い行為を未然に防ぐ、抑止するような何らかの仕組みが必要だ。
信用スコアに求められるインセンティブ設計とは?
そこで必要となってくるのが、適切なインセンティブ設計だ。今回のケースでいうと、以下の状態を作り出すことができればよい。
- 良い行為をすると、得をする設計
- 悪い行為をすると、損をする設計
シンプルにこの両軸を機能させることができれば、スコアとしての権威性が出てくる。
「良い行為をすると、得をする設計」については、芝麻信用の例でもあるように、デポジットの免除などの特典、融資や後払い等の金融的優遇策などが考えられる。
「悪い行為をすると、損をする設計」については、いくつか方向性がある。
1つには、その信用スコアを適用できるサービスを増やしていく方向性がある。プラットフォーム化して、様々なサービスにおける信用確認を一手に担う立場になるということだ。
他の方法としては、何らかの悪い行為をした場合に、その人の生活において何か影響力のあるペナルティを与える方向性だ。たとえば、日本でいえば、信用情報機関のCICと連携することで、クレジットカードの審査が通らなくなるといったことが考えられる。
中国の芝麻信用では、レンタカーサービスの「神州租車」で信用スコアを活用したデポジット免除サービスを開始した当初、自動車の返却率は下がるなどうまく機能しなかった。
そこで、「神州租車」の利用データを芝麻信用にフィードバックし、アントフィナンシャル経済圏の金融サービスの利用に影響が出るようにしたところ、返却率は大幅に改善したという。
これらに共通して言えることは、悪い行為をした場合にきちんと損をするインセンティブ設計が整備されているということだ。
このように、信用スコアが正しく権威的に機能するためには、得をする方向だけでなく、損得両軸のインセンティブ設計を整えていく必要がある。
信用のプラットフォームという考え方
これまでの話を端的にまとめると、信用スコアの価値は「信用のプラットフォーム」にあるのではないかと思う。
このような信用のプラットフォームを考えたときに、スコアリングそのものは本質ではない。様々なデータが集まり、そのデータに皆がアクセスできるような状態に価値がある。
極論、スコア化されていなくてもよいかもしれない。
たとえば、メルカリのレビューデータを他のシェアリング事業者がAPIで参照することができれば、それだけでも価値になりうる。
ただ、そのデータの数が増えてきたときに、やはり1つの数値で指標化されていたほうが扱いやすいという理由で、ようやくスコアリングの話が出てくる。
つまり、信用情報へのアクセスを簡易化したものが「信用スコア」と言えるかもしれない。
まとめ
本記事では、信用スコアの本質について、インセンティブ設計とそれを伴う信用プラットフォームにあるという考えを展開してきた。
現代日本における信用のプラットフォームとしては、JICCやCICといった企業がある。彼らは、金融系の事業者を会員として抱えており、信用に関わる情報を収集し、その情報へのアクセスも可能にしている。
この記事で述べてきた「信用プラットフォーム」は、いわばJICCやCICのアップデート版だ。30年も寡占が続いていたこの業界で、新たな動きがあってもよいだろう。
実際に、Crezit のような信用領域をディスラプトしようというスタートアップも出てきている。
僕は最終的にCrezitを通して、インターネット上で、資産としての信用をポータブルに引き継げるプラットフォームを作っていきたいです。
信用へのアクセスは、今後金融領域だけでなく、C2Cなどの様々な領域で必要となってくる。これからどのように動いていくか、楽しみだ。