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信用スコアは日本で普及するのか?日本版信用スコアのあり方を考える

信用スコアは日本でも普及するのだろうか?

信用スコアは日本でも普及するのだろうか?

本記事では、この問いについて、有識者の方の発言を参考にしつつ考えていきたいと思う。

アメリカのFICOスコア、中国の芝麻信用は広く利用されているが、環境が異なればそこに必要なサービスは異なる。

日本という環境において、信用スコアはどのような役割を果たしていくべきなのか、考えていこう。

日本で信用スコアは普及するのか?

結論からいうと、日本でも信用スコアは「ある程度利用されるようになる」と考えている。

それは、ある消費者層においては、信用スコアの導入が合理的だと考えられるからだ。

逆にいうと、何らかの制度などができない限り、全国民が利用するようなサービスにはならないと考えている。

その根拠として、3つの動きがある。

  • 働き方の多様化
  • 信用データの所在の変化
  • シェアリングエコノミーの台頭

それぞれについて、解説していこう。

働き方の多様化

フリーランサーなどライフスタイルの多様化は進んでいる
フリーランサーなどライフスタイルの多様化は進んでいる

まず、1つ目は、「働き方の多様化」が進んでいるということだ。

たとえば、ランサーズのフリーランス実態調査によると1、近年、フリーランスの数やその経済規模は増加している。

フリーランスの経済規模と人口の推移(出典:ランサーズ フリーランス実態調査2018)
フリーランスの経済規模と人口の推移(出典:ランサーズ フリーランス実態調査2018)

また、同調査によると、副業に従事する人も年々増加している。

副業従事者の人口も増加している(出典:ランサーズ フリーランス実態調査2018)
副業従事者の人口も増加している(出典:ランサーズ フリーランス実態調査2018)

この傾向は、2019年4月に予定されている働き方改革関連法の施行によって、さらに強まっていくと考えられている。

このような働き方の変化が起きてくると、信用度の測り方も変わっていく必要がでてくる。

今までは「この会社に務めている人は信用できる」といった判断を下していたところが、フリーランスの人であれば「どのような会社と取引があるのか」「継続的に仕事を受注しているのか」といった情報から信用を測る必要があるだろう。

また、サラリーマンであっても、副業により稼ぎがある場合には、勤務している1社のみで信用を測るよりも、副業の内容も考慮されるべきであろう。

『テクノロジーの地政学』著者のシバタナオキさんは、この点について、以下のように述べている2

特に中国みたいに経済が急発展した国では、勤め先だけでは、誰をどのぐらい信用していいか分からない。だから、信用スコアのようなものが必要になる。日本もこれから終身雇用がなくなってフリーランサーの人が増えると思うので、やはり信用スコアのようなものが必要になってくるのかなと思います。

このように、「働き方の多様化」は、信用スコアの普及を促す1つの流れといえる。

この領域の信用スコアとしては、クラウドワークスの「クラウドスコア」がある。

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信用データの所在の変化

信用データを保有する企業は変わってきている
信用データを保有する企業は変わってきている

次に、「信用データの所在の変化」という動きがある。

今までは、ほとんどの金銭的な取引は、銀行口座を経由していた。そのため、銀行口座を確認すれば、その人の経済行為はある程度分かるようになっていた。

しかし、スマホの普及により、そのお金のフローは変わってきている。特に、若年層にとって、その傾向は顕著だ。

この点について、前述の『テクノロジーの地政学』の共著者である吉川欣也さんは、以下のように述べている。

今スマホというパワフルなものが出てきて、たとえば銀行口座を持っていなくても、スマホでいろいろなやり取りを実現する必要が出てきた。となると、今度はスマホを管理できるところが信用をチェックする、という流れになるのは自然です。見方を変えれば、テクノロジーが入ってきて、「信用」をスコアリングする機関が変わってきたということです。

この流れは、中国におけるアリペイが消費者の財布を握り、その後に「芝麻信用」という信用スコアをリリースしてきたこととも関連している。

テンセントも同様に、WeChat Pay のデータが十分に蓄積された2019年1月のタイミングで「微信支付分(WeChat Pay Points)」という信用スコアを発表している。

また、日本でも、QRコード決済に取り組む事業者が、相次いで信用スコア領域への参入を発表している。

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このように、信用度を測ることに必要なデータの所在が変化していくことで、そのデータを保有する企業が信用をスコアリングするようになるという流れは確実にきている。

そして、それは、吉川氏のいうように「自然な流れ」といえるだろう。

シェアリングエコノミーの台頭

3点目は、「シェアリングエコノミーの台頭」という動きである。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査によると3、シェアリングエコノミー型サービスの市場規模は、毎年10%以上の成長率で伸び続けている。

シェアリングエコノミー型サービスの市場規模(出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「スキルシェアリングサービスの 動向整理」)
シェアリングエコノミー型サービスの市場規模(出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「スキルシェアリングサービスの 動向整理」)

一方で、このようなシェアリングサービスの利用が広まる中で、消費者の中では様々な「不安」も出てきている。

以下のアンケートは、「スキルシェアリングサービス」に限定した質問だが、シェアリングサービスにおける不安をよく表している。

スキルシェアリングサービス利用時の不安事項(出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「スキルシェアリングサービスの 動向整理」)
スキルシェアリングサービス利用時の不安事項(出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「スキルシェアリングサービスの 動向整理」)

赤枠は私が強調のために追記させて頂いた。

この赤枠の不安は、「信用スコア」によって和らげることができそうな要素ではないだろうか?

つまり、シェアリングエコノミー関連サービスが今後さらに伸びていくに従って、取引相手に対する不安問題を解決するソリューションが必要となり、その解の1つとして「信用スコア」は有効だと考えられるわけだ。

国内でこのシェアリング領域における信用スコアを模索しているプレーヤーとしては、ヤフーやメルペイが挙げられる。

特に、ヤフーは、2018年10月に、シェアリングエコノミー協会を含む11社1団体との実証実験を発表しており、今後の展開に期待したい。

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若年層は信用スコアに好意的

ここまで、信用スコアが日本でもある層にとって広まると考えられる理由について整理をしてきた。

ここで、ネットプロテクションズが「信用スコアについての意識調査」を行っている4ので、みてみよう。

年齢別の信用スコアの普及についての意識(出典:ネットプロテクションズ、「信用スコア」に対する意識調査)
年齢別の信用スコアの普及についての意識(出典:ネットプロテクションズ、「信用スコア」に対する意識調査)

この調査によると、年齢が若いほど信用スコアの普及に対して「賛成」の割合が多いということが分かる。

いわゆるデジタルネイティブほど、自らの情報を活用して便利なサービスを受けることに対して寛容であるということだろうか。

未成年の賛成の割合の大きさには、目をみはるものがある。もちろん、プライバシーへの教育は必要だとして、このように、若年層ほど信用スコアに対してポジティブだというのは事実としてある。

ちなみに、LINEの信用スコア「LINE Score」は、おそらくこの若年層をメインターゲットとしている。

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日本における信用スコアのあり方を考える

さて、これまでの議論を振り返って、改めて「日本における信用スコアはどのようにあるべきか」、考えを整理していこう。

冒頭で、「ある消費者層にとっては広まる」という書き方をした。

このある消費者層には、以下のような特徴が当てはまりそうだ。

複数に当てはまれば、それだけ信用スコア系サービスとの相性が良いということになる。

  • フリーランスや副業など新たな働き方をしている
  • QRコード決済をはじめ、スマホウォレット系サービスをよく利用している
  • シェアリングサービスをよく利用している
  • 信用スコアに寛容な若年層(特に、15〜19歳)

このように、信用スコアが効果を発揮できる領域や、信用スコアが求められている領域、信用スコアに寛容な世代については、大枠では整理ができる。

あとは、このようなファクトを元に、実際にどのような層に対してどのような便益を設計していくかという、サービスの具体が重要となる。

実際に、日本で信用スコア参入を発表している企業では、このうちのいずれかあるいは複数を狙って設計を進めている。それぞれにサービスについては、以下の記事を参考にしてみてほしい。

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さいごに

本記事では、「信用スコアは日本で普及するのか?」という問いに対して、いくつかの論点から、ある消費者層にとってはニーズがあり利用されるのではないかという論を展開してきた。

これは1つの考えに過ぎないが、本記事が信用スコアについて考える際の「思考のヒント」になれば嬉しい。

また、「他にもこういう論点がある」といったご意見などがあれば、ツイッターにてぜひ教えていただければと思う。

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