信用スコア(クレジットスコア)は、日本でもドコモやLINEの参入発表により話題になってきている。
信用スコアは様々なサービスへの応用もできるため、今後、様々な領域でそれぞれ独自のスコアリングがバーティカルにが生まれてくることも予想される。
そのような中、米国では、自動機械学習による信用スコアリングのモデルを SaaS として提供するスタートアップが注目を集めている。ZestFinance(ゼストファイナンス)という会社だ。昨年末にはマイクロソフトとの提携も発表し今勢いに乗っている。
「公正で透明性の高い与信プロセスを、全ての企業で利用可能にしたい」というCEOの言葉はどのように実現されるのか?
本記事では、ZestFinanceのビジネス全般についての解説と、彼らの信用スコアリングモデルプラットフォーム「ZAML」について解説していきたい。
「信用スコア」について詳しく知りたい方は「信用スコアとは?仕組みとサービス事例を日本中国米国中心に徹底まとめ」をご覧ください。
- ZestFinance の概要
- ZestFinanceの元々のビジネスは?
- 信用スコアリングSaaS「ZAML」の仕組み
- マイクロソフトと戦略的パートナーシップ
- フォードや中国巨大企業も導入へ
- まとめ
- さらに理解が深まる記事
ZestFinance の概要
ZestFinance(ゼストファイナンス)は、2009年に米国カリフォルニア州のロサンゼルスに設立されたスタートアップで、これまでに総額$217M(約240億円)を調達している。
創業者兼CEOの Douglas Merrill(ドーグラス・メリル)氏は、元 Google の CIO(Chief Information Officer)兼 Vice President Engineering を務めていた人物。機械学習関連の SaaS を提供するには適任と言えよう。
ZestFinanceの元々のビジネスは?
先述したように、ZestFinanceでは現在「ZAML」という信用スコアリングモデルの SaaS ビジネスを展開している。
しかし、そのサービスのリリースは2017年の4月。それ以前には、別の形態をとっていた。
ZestFinanceの以前のビジネスモデルは主に2つあった。1つ目が、融資を行う事業者へのスコアリングの提供、もう1つが自社による個人融資事業「Basix」である。
融資事業者へのスコアリング提供
ZestFinance には、サブプライム層の既存のFICOによる信用スコアではスコアリングがされず、年利500%を超えるようなペイデイローンを利用をせざるをえない状況を解決したいとい思いがあった。
その課題を解決するべく、独自のスコアリングモデルで作成した信用スコアをサブプライム層への融資を行っている事業者に対して提供することで、ペイデイローンよりは低い年利で貸し出すことを可能にしていた。
融資サービス「Basix」
上記のスコアリングの提供サービスについで、自社による融資サービスの展開もおこなっていた。「Basix」というサービスだ。
こちらも仕組みとしては同様で、FICOスコアでいう優良層より下位のユーザー層に対して、独自のスコアリングにより融資を行っていた。
理由は明確には言われていないが、2017年9月にサービスはクローズしている。新規ビジネス「ZAML」を開始してから5ヶ月が経過したタイミングということで、「ZAML」の兆しが見えてきたため、自社リソースを集中させたかったのかもしれない。
信用スコアリングSaaS「ZAML」の仕組み
融資事業者へのスコアリング提供、融資サービス「Basix」を経て、2017年4月に満を持してリリースされたのが「ZAML」というサービスだ。
ZAML は、「Zest Automated Machine Learning」の略称で、ZestFinance による自社のクレジットスコアを作成するための機械学習エンジンである。
ZestFinance の公式サイトによると、ZAML の導入により、平均して、承諾率は15%上昇、デフォルト率は30%減少したという。さらに、スコアリングモデルの開発からプロダクションまでの期間は3ヶ月間というスピード感でできるという。
ZAML は大きく分けると、3つの部分から構成されている。
1つ目は、「data assimilation(データ同化)」。ここでは、データフォーマットに関わらず、顧客の保有する数千ものデータソースから、データを認識・整理・集約し、さらに、内部のデータを利用できるようなAPIを提供している。
2つ目は、「modeling tools(モデリングツール)」。ここでは、顧客ごとのビジネス課題を解決するための機械学習モデルの製品化をサポートする。
そして、3つ目は、「model explainability(モデルの説明可能性)」。ここは、ZAMLの中でも特に重要視している点で、スコアリングに寄与する主要な要素を特定して表示してくれるなど、機械学習モデルに透明性をもたらす部分だ。
また、融資には様々な法的な制約や規制もあり、いくら機械学習のほうが精度がよかったとしても、それが説明できないと導入は難しい。
このような現実的な課題に対して、ZestFinance の ZAML では、各導入企業の担当者がモデリングについて説明できるようなツールや専門知識、さらに自動のMRMレポートや判断を決定する主要ファクター、変数の安全性分析等を提供している。
このようにして、「説明可能なAI」を提供することで、そのようなコンプライアンスの問題にも対応しているというわけだ。
マイクロソフトと戦略的パートナーシップ
ZestFinance は、パートナーシップにおいても、勢いに乗ってきている。
2018年12月19日、マイクロソフトとの戦略的パートナーシップを発表した。
マイクロソフトのクラウドプラットフォーム Azure 等に ZestFinance の ZAML を組み込むことで、Azure を利用している金融系の顧客が、ZAMLを利用した機械学習モデリングを行いやすくするという。
Azure は、AWSやGCPといった競合のクラウド・プラットフォームと比較して、セキュリティ面での安心性などにより金融系のクライアントで特にシェアを伸ばしていることから、今回の ZestFinance とマイクロソフトとのパートナーシップは、相性の良い両者によるものであったといえるだろう。
フォードや中国巨大企業も導入へ
他にも、多くのビッグネームへの導入や連携が発表されている。
たとえば,2017年には、世界的な自動車会社である「フォード」が自動車ローンの与信プロセスへの導入を発表した。
また、中国系では、アリババの次ぐEC大手の JD.com が戦略的パートナーシップを結び ZestFinance への投資を実施している。さらに、2016年には、中国ビッグスリーの一角を占めるバイドゥが大型の出資を行い、自社のクレジットスコアモデルの改善への利用を示唆している。
中国国内では、アリババ関連会社のアントフィナンシャルによる「芝麻信用」という信用スコアが圧倒的シェアを保有しているが、バイドゥや JD.com も今後、ZAMLのモデリングを元に高精度かつ「説明可能なクレジットスコア」を発表してくるかもしれない。
このように、ZestFinance は、マイクロソフト、フォード、バイドゥなど世界を代表する企業との連携を進め、そのスコアリングモデルにより、彼らのビジネスを裏側から支えようとしている。
まとめ
本記事では、「ZAML」という自動機械学習による信用スコアリングプラットフォームを提供する「ZestFinance」について解説をしてきた。
ZestFinance が創業から10年にして出した答えが「ZAML」という SaaS モデルであり、マイクロソフトとの戦略的パートナーシップは彼らの今後の活躍を大きく後押しするもとなるだろう。
1段階レイヤーを上げて、信用スコアリングに限らず自動機械学習モデル全般を提供する会社をみてみると、世界的には DataRobot、日本国内でいえば、ABEJA の ABEJA PLATFORM のあたりが該当する。
ZestFinance は、その中で金融系の信用スコアリングという一分野に限定することで大きな成果を上げており、非常にうまい市場選択をしたという印象だ。
日本の信用スコア業界について目を向けると、現段階で ZestFinance のような機械学習による信用スコアリングモデルを SaaS として提供するようなプレーヤーは出てきていない。
ただ、ZestFinance がそうであったように、SaaS ビジネスとして展開するためには、まずは自らそのスコアリングモデルによる融資ビジネスを行うなど何らかの形でその実績を示し信用を得る必要があるだろう。
これから、市場が盛り上がっていくにつれて、ZestFinance のような立ち位置のプレーヤーが出てくるかもしれない。今後も、注目していきたい。
さらに理解が深まる記事
ZestFinance が 19年3月にリリースした「ZAML Fair」という公平性を実現するアルゴリズムについてはこちら。 www.dappsway.com
「信用スコア」についてさらに深い知りたいという方はこちら。 www.dappsway.com