インドのEC市場は、Flipkart と Amazon の二強体制であるが、その両サービスで後払いソリューションを提供しているサービスがある。
それが「ZestMoney(ゼストマネー)」だ。
ZestMoney では、独自の信用スコアリングにより既存の信用スコアを保有しない人に対しても、「後払い」を提供している。
そして、彼らの面白いところは、事業領域を「後払い」に限定せず、Credit-as-a-Service(CaaS)として、Credit(信用)が必要なところに拡張しているところだ。
本記事では、そんな ZestMoney の概要、仕組みや利用データ、導入企業、拡大戦略について迫っていこう。
- ZestMoney の会社概要と創業者
- ZestMoneyの仕組みと利用データ
- ZestMoney の利用フロー
- ZestMoney 導入企業は100社以上
- CaaS(Credit-as-a-Service)としての拡大戦略
- まとめ
ZestMoney の会社概要と創業者
まず、ZestMoney の会社概要と創業者について解説していこう。
ZestMoney は2015年にインドのバンガロールで設立された。
これまでに、2190万ドル(約24億円)を調達しているほか、2019年1月には金額非公開のデットファイナンスも行っている。
3人の共同創業者は、2011年に Wonga というペイデイローンのスタートアップを創業したメンバー。ZestMoney は、彼らにとって「インド市場における二度目の挑戦」だ。
共同創業者のうちの一人でCEOを務める Lizzie Chapman 氏は、ゴールドマン・サックスで株式調査及び資産運用管理、ウェルカム・トラストで投資を経験後、Wonga を創業。
その後、もう一社 Abode Bombay を創業、そしてシンガポール開発銀行に移り「digibank」というモバイル専用の銀行立ち上げを経て、ZestMoney の創業に至っている。
COO&CFOの Priya Sharma 氏、CTOの Asish Anantharaman 氏は、インド出身。CEOとCOO&CFOの両者が女性ということで、女性起業家として注目されることもある。
ZestMoneyの仕組みと利用データ
ZestMoney は、様々なデータを利用した独自の信用スコアリングにより、主にEC購買の際に「後払い」のオプションを提供している。
対象ユーザーは、クレジットカードを保有していない(できない)人たちだ。
そのような人たちに対して、独自の信用スコアによって、後払いの可否及び上限金額を判断しているというわけだ。
EC購買の際に ZestMoney を利用すると、3,6,9,12ヶ月から支払期間を選択して分割後払いにすることができる。
ZestMoney が信用スコアリングに利用しているデータは以下の通り。
- 信用情報機関のデータ
- ウェブ上の行動履歴
- ウェブグラフ(ネット上の人間関係?)
- ECの購買履歴
これらのデータを元に、スコアリングを行うことで、既存の信用スコア(最も一般的な CIBIL Score)を持たないユーザーへの後払いソリューション提供が可能になっている。
実際に、ZestMoney 利用ユーザーのうち、25%は CIBIL Score を保有していない。
ZestMoney の利用フロー
では、実際に、どのような利用フローになるのか?
導線としては、以下の2つの方法がある。
- ZestMoney サイトから登録して上限金額をチェック
- 提携パートナー(主にEC)の決済時に申請
初めて利用する際には、以下のような登録が必要となる。
登録に必要ないくつかのドキュメントと本人認証、そして後払いの際に自動引落をするための NACH(National Automated Clearing House:インド自動決済機関)の登録が必要となる。
そのために、銀行口座も必要となる。信用スコアの文脈では、「銀行口座を持たない人のための信用スコア」という話もよく出てくるため、一見ユーザーを相当限定してしまうのでは?と考える人もいるかもしれない。
しかし、インドでは近年、国民ID Aadhaar の普及もあり、銀行口座の保有率が著しく上昇している。インドにおける成人の銀行口座保有率は、2011年に35%、2014年に53%から、2017年には80%まで伸びているのだ1。
ちなみに、Amazon で ZestMoney を利用する際の条件は上図のようになっている。
EMIは、Equated Monthly Installments の略で、日本語では「毎月定額の分割後払い(月賦払い)」のことだ。
Amazon の一部事業者では、金利を「0%」で提供している。
ZestMoney 導入企業は100社以上
ZestMoney の導入企業は、すでに100社以上となっている。
インドECの二大巨塔である Amazon と Flipkart はもちろんのこと、他にも様々な領域で導入が進んでいる。
たとえば、シリーズAで ZestMoney に投資をしている中国のスマホ及び家電メーカーのシャオミは、「Mi Finance」と呼ばれる分割後払いを「Mi Home」と呼ばれるリアル店舗で展開しているといった事例もある。
CaaS(Credit-as-a-Service)としての拡大戦略
ZestMoney は、自らのことを「CaaS(Credit-as-a-Service)」と定義している。
つまり、Credit(信用)をインターネット経由でサービスとして提供する事業体というわけだ。
「後払い」はそのうちの1つの形態であり、今後、「Credit-as-a-Service」として「Credit」が必要な全てのシーンでパートナーシップを組んでいくという。
たとえば、ZestMoney では PayTM や Chillr といった決済・送金アプリとパートナーシップを発表している。
今後どのようなシーンへ展開していくのか、注目していきたいところだ。
また、2018年8月には、AI-as-a-Service を提供する PhotographAI を買収している2。写真による個人認証を強化することで、CaaS としての価値を高めていくのだろう。
まとめ
本記事では、インドで後払いソリューションを提供する「ZestMoney」について解説してきた。
ZestMoney の大型顧客である Amazon は、2018年9月に自社の後払い(EMI)ソリューションを Amazon Pay でリリースしている3。
このように、今後、巨大な企業はデータの蓄積に合わせて内製化を図っていくことも考えられる。その中で、ZestMoney はどのようにバリューを出していくのか注目である。
同じモデルでは、米国の Affirm が大型の資金調達をしており要チェックだ。