この記事は、2019年5月13日に更新しました。
中国アリババ系列のアントフィナンシャルの提供する信用スコアサービス「芝麻信用」は、今世界中で注目を集めている。
信用スコアについては、日本でも盛り上がりを見せてきている。
2019年中には、ヤフーやLINE、ドコモといった日本を代表する企業が信用スコアサービスのリリースを予定している。
芝麻信用の事例は、日本の事業者にとって、「教科書的な存在」と呼べるほど参考になるだろう。
本記事では、そのような芝麻信用について、「芝麻信用についてはこれだけ読めば大丈夫」というレベルで網羅的にまとめている。
本文中に、他記事へのリンクも適宜用意しているので、さらに深く知りたい方は、文中で紹介している各記事についてもチェックしてみてほしい。
- 芝麻信用(ジーマクレジット)とは?
- 芝麻信用の読み方
- 芝麻信用のはじまり(歴史)
- 芝麻信用のユーザー層
- 芝麻信用の利用データとスコアリングの仕組み
- 芝麻信用の信用スコアの活用先
- 芝麻信用のスコアで測定できる「信用」とは?
- 芝麻信用のセキュリティ
- 中国人民銀行からの評価は?
- まとめ
芝麻信用(ジーマクレジット)とは?
まず、芝麻信用の概要について解説していこう。
芝麻信用では、様々なユーザーデータを元に、個人の信用度を測る信用スコア「芝麻スコア」を提供している。
芝麻信用の信用スコアは、350〜950点でスコアリングされ、それぞれ以下のような評価になっている。
- 350~550点:較差(やや低い)
- 550~600点:中等(普通)
- 600~650点:良好(良い)
- 650~700点:優秀(とても良い)
- 700~950点:極好(極めて良い)
このスコアによって、様々なメリットを受けることができる。後述するが、レンタカーのデポジット免除や後払いオプション、婚活サイトでの利用など、多岐に渡っている。
芝麻信用では、「人が何をする上でも『信用があるから簡単』という状態を世界に行き渡らせること」を実現しようとしているサービスだ。
芝麻信用の運営企業は、アリババのグループ会社であるアントフィナンシャルのさらに子会社である「芝麻信用管理有限公司」という会社となっている。
アントフィナンシャルは、アリババグループの金融事業を担当しており、有名なところでは「Alipay(アリペイ)」の運営企業でもある。大枠としては、アリババ経済圏のうちの1つのサービスと捉えてよいだろう。
芝麻信用の読み方
「芝麻信用」と書いてあっても、「なんて発音したらよいんだろう?」と疑問をお持ちの方も多いだろう。
様々な読み方があるが、日本語では「ジーマシンヨウ」が最も一般的だ。
その他には、以下のような読み方がある。
- ジーマクレジット
- セサミクレジット
- セサミシンヨウ
- ゴマシンヨウ
英語では、「Zhima Credit」というスペルになる。「芝麻」は中国語で「ゴマ(Sesame:セサミ)」の意味のとため、セサミクレジットやゴマシンヨウといった読み方がされることもある。
なぜ「芝麻(ゴマ)」なのかというと、アントフィナンシャルの井賢棟(ジンシェンドン)CEOは、次のように語っている。
ゴマと信用は極めて似ている。見た目は小さいが、栄養は豊富で重要だ。少しずつでも貯め続けると大きなものとなる。『ゴマ』という言葉を信用調査期間の名につけたのは、『信用とは、その一つひとつが貴重で、蓄積することに意義がある』という理念を伝えたかったからだ
引用:キャッシュレス国家 「中国新経済」の光と影 P.137
また、『千夜一夜物語』の『アリババと40人の盗賊』の一場面でおなじみの「開けゴマ!」という呪文から、「ゴマにより将来の可能性が開かれる」という意味合いを持たせているという説もある。
タイピングするときは「しばあさしんよう」と打つか、辞書登録をしておくと便利だろう。
芝麻信用のはじまり(歴史)
芝麻信用は、2015年1月28日に公開テストを開始し、それから徐々に利用可能なユーザーを広げていった。
しかし、そのアイデア自体は、2012年時点ですでにあったという。
2012年に信用サービス展開のアイデアが醸成され、2013年に計画に着手、2014年には法人設立の準備、2015年1月に法人設立とともにサービス開始に至ったという流れだ。
アントフィナンシャルでこのように芝麻信用のサービス開始が準備される中、2014年にはタイミングよく国の政策的なサポートも受けることになった。
2014年6月に、中国国家省は「社会信用制度の構築に向けた計画概要」と題した文書を発表し、2020年までに中国国内で「社会信用制度」を構築することを公表したのだ1。
中国人民銀行(中国の中央銀行)は、この社会信用サービスを提供する企業の候補として、8社を指定している。
そのうちの1つが、アントフィナンシャルの芝麻信用だったというわけだ。
芝麻信用のユーザー層
芝麻信用のリリース当時には、用途として個人向け融資のみだったため、従来の信用調査機関がカバーしきれていなかった一般庶民たちが主要なユーザー層となった。
具体的には、以下のような人たちである。
- クレジットカード申請をしたことがない層
- 学生
- ブルーカラー
- 個人事業主
- フリーランス
中国は銀行口座を持たない国民が世界で最も多く、2017年時点で中国国民のうち「2億2400万人」の成人(15歳以上)が銀行口座を保有していない2。
このような国民は、芝麻信用の信用スコアを用いることで、過度に高い金利に苦しむことなく、お金を借りることができるようになった。
現在では、芝麻信用の活用先は、個人向け融資以外にも様々なサービスへの広がっているため、それ以外のユーザー層も増えている。
芝麻信用の利用データとスコアリングの仕組み
さて、芝麻信用のスコアはどのように算出されているのだろうか?
芝麻信用の利用データやスコアリングの仕組みについては、以下の記事に詳述しているので、こちらをご確認いただきたい。
芝麻信用の信用スコアの活用先
また、芝麻信用のスコアの活用先のパターンについては、以下の記事にまとめているので、こちらをご確認いただきたい。
さらに、芝麻信用を導入することによるユーザー体験の変化については、以下の記事にまとめているので、こちらも合わせてご確認いただきたい。
芝麻信用のスコアで測定できる「信用」とは?
芝麻信用のスコアの示す「信用」とは何をさすのだろうか?
芝麻信用では、サービスの考案にあたり、中国人民大学のウー・ジンメイ教授の『信用三維論』の内容をベースにしているという。
『信用三維論』では、信用を3つのレベルに分けている。
- 誠実度:道徳的な意味での信用
- 法令遵守度:社会規範に対する信用
- 契約履行度:債務の履行などの経済的信用
このうち、芝麻信用では、3つ目の「契約履行度(経済的信用性)」のみをスコア化することにした。
その理由は、「契約履行度(経済的信用性)」は、データ化が可能で分析でき、かつ予測性も比較的高いためだ。
「誠実度」については、数値化して評価がしにくく予測も立てにくいため向いていない。
「法令遵守度」については、妥当でない制度や法律によって「良い行い」が「法令違反行為」となってしまう可能性がある、としてそれぞれスコアに含めることを見送っている。
そのため、芝麻信用は生活シーンでも利用されるが、それは、あくまでも経済的な信用性を測る指標ということは認識しておく必要はあるだろう。
婚活サイトで芝麻信用のスコアを見ることはできるが、それはその人の誠実度を表しているわけではないというわけだ(相関性はあるかもしれないが)。
芝麻信用のセキュリティ
「情報セキュリティは芝麻信用の生命線だ」として、芝麻信用ではセキュリティ面の細心の注意を払っている。
実際に、2016年4月には、英国規格協会の評価認証に合格し、中国の信用調査機関としては初めて、「情報セキュリティマネジメントシステムの国際規格(ISO270001:2013)」を取得している。
センシティブなパーソナルデータを扱うからこそ、このようにセキュリティ面への配慮も欠かせない。
中国人民銀行からの評価は?
前述のとおり、芝麻信用は、中国人民銀行から「社会信用制度」の構築に向けたサービスの候補のうちの1つに指定されている。
しかし、中国人民銀行は、芝麻信用を含め、8社すべてに対していまだに「許可証」を出していない。
これにはいくつか理由があるのだが、「各社が独自の閉鎖系のシステム構築をしておりカバレッジが制限されること」や「単独企業運営のため、統治機構の独立性が備わっていないこと」などが指摘されている。
これらの点については、芝麻信用としては「どうしようもない」というのが現実ではないだろうか。
今後、芝麻信用が中国の社会信用制度を担っていくようになるのだとすれば、このような大きな壁が立ちはだかっている。
まとめ
本記事では、「芝麻信用の全て」ということで、様々な論点について解説をしてきた。
リンク先の記事も合わせると、1.3万字ほどの内容になっている。
芝麻信用は、現代の信用スコアの領域において最も参考になるサービスと言っても過言ではない。
この芝麻信用の仕組みをもとに、日本ではどのような仕組みがよいのか、議論していけるとよいだろう。
さいごに、文中でもご紹介した芝麻信用の関連記事リンクを貼っておくので、ぜひ次のステップとして読んでみてほしい。
- 芝麻信用の信用スコアの利用データとスコアリングの仕組み
- 芝麻信用スコアの活用先まとめ デポジット免除など6つの活用パターン
- 【図解】芝麻信用によるUX革命とインターネットの本質を突く信用スコアの可能性
なお、本記事を作るにあたり、書籍『アントフィナンシャルーー1匹のアリがつくる新金融エコシステム』を参考にさせて頂いた。書籍でさらにインプットしたいという方は、本書をおすすめしたい。

アントフィナンシャル――1匹のアリがつくる新金融エコシステム
- 作者: 廉薇,辺慧,蘇向輝,曹鵬程,永井麻生子
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2019/01/25
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