※この記事は、2019年4月2日に更新しました。
中国アリババ系列アントフィナンシャル傘下の「芝麻信用(ジーマクレジット)」の信用スコアには、世界中の信用スコアの中でもユニークな点がある。
それは、信用スコアの活用先が、個人向け融資だけでなく、様々な生活シーンに及んでいることだ。
一般的な信用スコアは、個人向けの融資に利用されるが、芝麻信用の信用スコアでは、レンタカーのデポジット免除や婚活サイトの信用証明といった利用の仕方もある。
本記事では、そのような芝麻信用の活用先について、項目別に具体例も入れつつ解説していこう。
- 芝麻信用の信用スコアの6つの活用パターン
- 個人向け融資の可否や上限額の判断
- 後払いオプションの可否や上限額の判断
- デポジット免除(レンタカーやホテル等)
- 待ち時間なしの特権
- C2Cやマッチングサービスにおける信用
- ビザ取得の際の書類免除
- まとめ
芝麻信用の信用スコアの6つの活用パターン
芝麻信用の信用スコアの活用先をカテゴライズすると、以下のように6カテゴリーに分類できる。
- 個人向け融資の可否や上限額の判断
- 後払いオプションの可否や上限額の判断
- デポジット免除
- 待ち時間なしの特権
- C2Cやマッチングサービスにおける信用
- ビザ取得の際の書類免除
一般的な信用スコアでは、上から2つ目までの金融関連が一般的だ。その下の4つについては、芝麻信用の信用スコアが新たに切り拓いた領域といえるだろう。
以下では、これらの6つのカテゴリーについて、解説していこう。
個人向け融資の可否や上限額の判断
まず1つ目は、「個人向け融資」における可否や貸付上限額の判断への利用だ。
これは、一般的な信用スコアの利用方法である。
芝麻信用の場合には、アントフィナンシャルが提供する個人向け無担保ローン「借唄」を利用することになる。
「借唄」では、芝麻信用のスコアが600点以上でお金を借りることができ、スコアによって貸付上限額は1,000元〜30万元(約1.6万円〜500万円)の間で変動する。
日歩(1日あたりの金利)は、0.045% で固定となっている。ちなみに、日本の信用スコア「J.Score」ではスコアによって金利も変動する。ここは、サービスをシンプルにさせるため固定化しているのかもしれない。
後払いオプションの可否や上限額の判断
2つ目は、「後払いオプション」の可否や後払いの際の上限額の判断への利用だ。
後払いオプションの例ととしては、まず第一に「花唄」というアントフィナンシャルの提供するサービスがある。
「花唄」は、「借唄」と同じく、芝麻信用の信用スコアが600点以上で利用することができる。
「花唄」で支払いをすると、翌月の10日までに指定した銀行口座やアリペイのウォレットに引き落としのためのお金を準備すればよい。また、金利を負担すれば、3 / 6 / 9 / 12回という分割払いを選択することもできる。
上限額は、500元〜5万元(約8,000円〜80万円)と「借唄」よりも低額となっている。
この「花唄」はクレジットカードの代替的な存在となっており、実際に「花唄」の利用ユーザーの60%にはクレジットカードの利用歴がないという。
また、「後払いオプション」は、「借唄」以外にも、ホテルの宿泊や病院における診療費においても利用できるサービスがある。
たとえば、アリババ傘下の旅行会社「アリトリップ」では、「信用住」という芝麻信用を利用したホテルサービスプランを提供している。このプランで宿泊をすると、お支払いは宿泊後に行うことができる。
デポジット免除(レンタカーやホテル等)
3つ目は、レンタカーやホテル宿泊における「デポジット免除」への利用だ。
デポジット免除のメリットは、ユーザーにとっても大きな魅力となり、芝麻信用の信用スコアの普及に大きく貢献した。
中国では、レンタカーやホテル宿泊、シェアサイクルなどの利用の際にデポジットが求められる。
例えば、シェアサイクルの「ofo」では、99元(約1600円)のデポジットが必要である。これは、サービスの初期利用時において、大きなハードルである。
このような課題に対して、芝麻信用のスコアが650以上でそのデポジットを免除することで、ユーザーはすぐにサービスを利用することができるようになるわけだ。
レンタカーでは、「神州租車」が信用スコアを導入することで、料金の未払い率や未返還率などを大幅に削減し、収益性を大幅に向上させたことから、他サービスでも導入がすすんだ。
その他には、日本でもおなじみの「賃貸時の敷金」を免除するようなサービスや、本の貸出の際の保証金が不要になるようなサービスも出てきている。
北京や天津など13地域で実施しているもので、1カ月で8冊の本を借りることができる。650点以上の人には、初回の保証金が不要で家まで届く(返却の送料は読者負担)。
待ち時間なしの特権
4つ目は、「待ち時間なしでサービスが利用できる」という特権への利用だ。
たとえば、芝麻信用のスコアが一定以上があると、病院において待たずに利用することができる。
また、スコアが750以上で、北京空港における専用出国レーンを利用することができるといったサービスもあった1。
C2Cやマッチングサービスにおける信用
5つ目は、「C2Cやマッチングサービスにおける信用の証明」としての利用だ。
たとえば、日本でも知られている Airbnb では、プロフィールの芝麻信用の信用スコアを掲載できるよういなっている2。
これにより、部屋を貸す側も借りる側も、お互いに相手が経済的に信用のある人であることを即座に判断することができる。
また、婚活サイトでも利用が進んでいる。結婚詐欺を未然に防ぎ、初対面でも信頼できる関係性を構築できるようにするためのサポートに利用しているわけだ。
たとえば、「百合網」や「世紀佳縁」といった婚活サービスが芝麻信用のスコアを導入している。
ただ、婚活においては、芝麻信用は、「経済的な信用性」を測るものであって、「人間の誠実さ」を測るものではないことは、認識しておく必要はあるだろう。
また、ビジネスSNSの Linkedin(リンクトイン)が中国で提供している「赤兎」でもスコアを表示できるようになっている。
※マッチングサービスや婚活サービスにおける利用は2019年4月現在では行っていない。
ビザ取得の際の書類免除
最後に、6つ目は、「VISA取得の際の書類免除」への利用だ。
一定以上の芝麻スコアがあると、シンガポールビザとルクセンブルクのビザの煩雑な書類の提出が免除になるという仕組みだ。
芝麻信用のスコアが、シンガポールビザの場合は700点以上で、ルクセンブルクビザの場合には750点以上で免除の対象となる。
特に、ルクセンブルクのピザは「シュンゲンビザ」に入っており、シュンゲン協定加盟国の全てで利用できるため、利用価値が高い。「世界一申請の難しいビザ」と言われることもあるため、その書類提出の免除は大きなメリットである。
シュンゲン協定の加盟国は、以下の26のヨーロッパ諸国への渡航が可能になる。
オーストリア、ベルギー、デンマーク、チェコ、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイスランド、イタリア、ラトビア、リトアニア、リヒテンシュタイン、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、 スイス
さらに、2018年11月には、カナダのビザ申請にも芝麻信用のスコアを利用できるようになった3。今まで必要となっていた銀行の預金証明などの煩雑な書類が不要になる。
カナダ側としては、この施策により、中国人観光客を呼び込みたいという意図がある。
まとめ
本記事では、アリババ系列アントフィナンシャル「芝麻信用」の信用スコアの活用パターンについて、6カテゴリーに分類し解説してきた。
芝麻信用のように、今後様々な生活シーンで利用される信用スコアも増えてくるだろう。
そして、その際には、この芝麻信用の活用方法が1つの「教科書」のようなものになるかもしれない。
この内容を参考にして、その国々のユーザーの課題にあったサービスができればと思う。
芝麻信用の信用スコアの利用データやスコアリングの仕組みについては、以下の記事をご確認ください。 www.dappsway.com
また、本記事を作成するにあたり、『アントフィナンシャル――1匹のアリがつくる新金融エコシステム』という書籍を参考にさせて頂いた。さらに詳しく知りたい方はぜひ手にとって見て欲しい。

アントフィナンシャル――1匹のアリがつくる新金融エコシステム
- 作者: 廉薇,辺慧,蘇向輝,曹鵬程,永井麻生子
- 出版社/メーカー: みすず書房
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