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シンガポールDBS銀行のデジタルバンク化はなぜ成功したのか?

シンガポールDBS銀行のデジタルバンク化はなぜ成功したのか?

シンガポールの「DBS銀行」をご存知だろうか?

DBS銀行は、「デジタルバンク」の成功例として世界屈指の実績を残していることで、今世界中で注目されている。

金融専門情報誌「ユーロマネー」の World's Best Digital bank の称号を2016年と2018年の2度にわたり獲得していることからも、その実力はお墨付きだ。

本記事では、書籍『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』の内容を参考に、DBS銀行のデジタルバンク化はなぜ成功したのか、という疑問に迫っていこう。

シンガポールのDBS銀行とは?

 シンガポールのDBS銀行とは?

まずは、DBS銀行がどのような銀行なのか解説していこう。

DBS銀行は、「シンガポール開発銀行(The Development Bank of Singapore)」として1968年に設立された。1963年のイギリスからの独立、1965年のマレーシアからの独立を経た直後の年だ。

2003年には、「DBS銀行(DBS Bank)」と改名をしている。DBS は、元の名前の頭文字からきている。

DBS銀行は、シンガポールからはじまり、現在東南アジア及び東アジアを中心に18の国・地域に280以上の拠点を構える規模になっている。

時価総額は7兆円に達し、日本のメガバンクと比較すると、三井住友銀行とみずほ銀行を超え、三菱UFJ銀行の迫る規模感にまで成長している。

そんなDBS銀行に世界から注目が集まった1つのきっかけは、金融専門情報誌「ユーロマネー」が「World's Best Digital Bank」の称号を2016年と2018年の2年に渡り与えたことだ。

さらに、グローバル・ファイナンス誌の「World's Best Banks 2018」においても、アジアで初の「Best Bank in the World」を受賞している。

はたして、DBS銀行の何が評価されているのだろうか?

DBS銀行が評価されている理由

「デジタル戦略についてただ語るのではなく、デジタル化が収益性にどのような意味をもつのかを定量的に示した」から。

端的にいうと、これが、DBS銀行が評価されている理由だ。

具体的な数字を示すと、デジタル化により以下のような成果が得られたという。

  • デジタル取引を行う顧客は、店舗訪問の顧客と比べて、2倍の売上をもたらし、より多いローンと預金も保有する。
  • デジタル取引の顧客の獲得にかかる費用は、従来の顧客を獲得する必要に比べて57%も低い
  • デジタル取引の顧客は、従来の顧客と比べて16倍も多く自発的に取引を行う
  • 従来の顧客の取引から19%のROEが得られるのに対して、デジタル取引の顧客の取引からのROEは27%にものぼる
  • 全体の39%のデジタル取引で、全体の69%の利益をあげる(2017年)

デジタル化の方針を示しアクションを起こしている銀行は多くあるが、ここまでの数字的な成果を出している銀行は、おそらくDBS銀行くらいだろう。

DBS銀行の株価はテクノロジー企業にように上昇している
DBS銀行の株価はテクノロジー企業にように上昇している

これらの評価を受けて、DBS銀行を含む DBS Group Holdings の株価は、テクノロジー企業にような角度で上がっている。

DBS銀行のデジタルバンク化戦略

DBS銀行のデジタルバンク化は、どのように成し遂げられたのか?

DBSの銀行のデジタルトランスフォーメーションへの着手が始まったのは、2009年。いまから10年も前だ。

デジタル化改革は、2009年に入社したグプタCEOと2008年に入社したデビット・グレッドヒルCIO主導の元はじまった。

DBS銀行DXの3つの標語

グプタCEOは、以下の3つの標語を掲げて、文字通りいままでのビジネスを否定し、新たな会社への生まれ変わりを図った。

  • Become digital to the core.(会社の芯までデジタルに)
  • Embed ourselves in the customer journey.(自らをカスタマージャーニーへ組み入れる)
  • Create a 22,000 start-up.(従業員2.2万人をスタートアップに変革する)

1つ目の「Become digital to the core.」は、表向きだけでなく、ミドルウェアやハードウェア、インフラのレベルまで、そして、経営陣・従業員のマインドセットまで全てデジタル化していくというもの。

2つ目の「Embed ourselves in the customer journey.」は、「預金・貸出・為替といった銀行目線の取引ジャーニー」から「ユーザー一人ひとりのライフスタイル・ニーズに寄り添う顧客目線のカスタマージャーニー」への転換を示すもの。

3つ目はの「Create a 22,000 start-up.」は、1点目に関連して、従業員のマインドセットをスタートアップ的に変革していく必要があるというもの。具体的には、社内ハッカソンやスタートアップへの出資などにより、新たなマインドセット養成を目指した。

これら3つの標語のもと、DBS銀行は「2つのフェーズ」に分けてデジタルバンク化改革を進めていった。

DBS銀行のデジタルバンク化「2つのフェーズ」

第一フェーズ:デジタルバンクを構築するための基礎を固める時期

第一フェーズは、2009年〜2014年。「デジタルバンクを構築するための基礎を固める時期」だ。

まず、デジタルバンクになるためのインフラやプラットフォーム、そして開発体制を構築していった。

具体的には、データセンターの増設、セキュリティオペレーションセンター、モニタリングセンターの設置などの開発基盤の構築を行った。

また、柔軟性の高い開発体制を作るべく、開発においては「外注からの脱却」を図った。その結果、現在では、85%が内製化されている。テクノロジー企業とも言われる所以である。

第二フェーズ:全社的にデジタルバンクを構築する時期

第二フェーズは、2014年以降。「全社的にデジタルバンクを構築する時期」だ。

「プロジェクト型組織」から「プラットフォーム型組織」へ、そして「アジャイル開発チームの編成」など、組織的な変化を遂げていった。

DBS銀行のバンキングアプリ
DBS銀行のバンキングアプリ

この第二フェーズの中で、デジタルトランスフォーメーションの柱として、以下の「4つの目標」を掲げている。

  • クラウドネイティブになる
  • APIによってエコシステムのパフォーマンスを上げる
  • 顧客第一主義を徹底する
  • 人とスキルに投資する

1点目の「クラウドネイティブになる」では、ハードウェア・ソフトウェア・管理部門の人件費の8割以上を削減し、芯までクラウド化を図った。

2点目の「APIによってエコシステムのパフォーマンスを上げる」では、200以上のAPIを通して60以上のパートナーとのエコシステムを構築するに至っている。これにより、様々なパートナーと連携したカスタマーエクスペリエンスの向上を実現している。

3点目の「顧客第一主義を徹底する」では、顧客接点のデジタル化を図り、リテール・バンキングの口座開設がオンラインでできるなど、顧客視点での「当たり前」を実現していった。

4点目の「人とスキルに投資する」では、「徹底した顧客第一主義」、「データドリブン」、「リスクを取って、実験に挑む」、「アジャイル型」、「学ぶ組織になる」の5つの指針を掲げ、そのための学びのスペースやスタートアップとのコラボスペースの設置などを行っていった。

「Live more, Bank less」という新ミッション

DBS銀行は、2018年に「Live more, Bank less」という新ミッションを掲げている。

DBS銀行の新ミッション「Live more, Bank less」

日本語訳するならば、「銀行を意識することなく、もっと生活を楽しもう」のような感じだろうか。銀行が「Bank less」と掲げるところ、尋常ではない勇気と決意と自信を感じる。

DBS銀行としては、「目に見えない銀行」として、様々なサービスを通してもっと自然に金融サービスを利用できる世界を目指している。BaaS(Bank-as-a-Service)の考え方である。

DBS銀行のデジタルバンク化はなぜ成功したのか?

世界では、他にもデジタルバンク化を図る銀行があるなく、DBS銀行のデジタルバンク化がここまでの成功を遂げた要因はどこにあるのだろうか?

CEOのグプタ氏は、以下のように語っている。

自らデジタル化していかなければ、私たちは死んでしまう。

DBS銀行は、中国も主戦場の一つとしており、アリババやテンセントなどの金融ディスラプターの躍進に対する危機感をいち早く敏感に感じ取っていたわけだ。

このままでは本当にテック企業に破壊されてしまう。2009年時点でそのような危機感を抱き、全社的な改革に打ち出せたことが第一の成功要因といえるだろう。

グプタ氏は、「ディスラプションに対峙する最善の方法は、先んじて自らを破壊すること」と強く主張している。このような経営層のリーダーシップは不可欠だ。

さらにあげるならば、DXの第一フェーズにおいて開発体制の内製化を進めることで土台を整え、第二フェーズで「人とスキルへの投資」を行っている点が、従来の銀行ではなく、「テクノロジー企業としてのDBS銀行」を生み出した大きな要因だったのではないかと、個人的には考えている。

自社で開発するからこそ、プロダクトを高速サイクルで改善していくことができ、そしてそれができるのは、適切なスキルとマインドセットを持った「人」に他ならないからだ。

もしジェフ・ベゾスならどうするか?

「もしアマゾンのジェフ・ベゾスが銀行業を行うとしたら、何をするだろうか?」

DBS銀行のCIO、グレッドヒル氏はこのように考えた末に、前述の3つの標語が生まれたのだという。

ディスタプター側の視点に立って徹底的に考えるという思考法は、自社内の無意識的な縛りから自らを解放して思考するために有効な方法なのかもしれない。

まとめ

本記事では、書籍『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』の内容を元に、シンガポールのデジタルバンク「DBS銀行」のデジタル化戦略についてまとめてきた。

日本でも、メガバンクを中心にデジタル化に向けて動きはある。また、LINEとみずほ銀行の合弁会社「LINE BANK」など、ディスラプターとメガバンクがタッグを組むという動きも出てきている。

これらが成功するか否かは、やはり中の人あるいは組織がどれだけ変わることができるのかにかかっているような気もする。

DBS銀行の成功事例から学ぶことで、日本でも成功事例が出てきてくれることに期待したい。

アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ

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